※こちらは2023年に公開された記事です。
「糸も色もすべて、石垣島の大自然の恵みです」
「八重山上布にしか出せない風情がありますね」
店主 泉二啓太(以後 啓):次は八重山上布を紹介しましょう。宮古上布が作られる宮古島よりもさらに南西へ、沖縄本島から400~500kmの八重山諸島・石垣島で作られています。
会長 泉二弘明(以後 弘):八重山上布といえば、特徴的なのが「海晒し」です。織りあがった布を海水に晒すことで、布の汚れ・不純物を落として草木染(紅露染)の色を定着させるんですね。
啓:珊瑚礁のカルシウムが海水に溶けて色止めの効果があると聞いたことがあります。エメラルドグリーンの海に浮かぶ八重山上布・・・会長は取材で同行されましたよね。いかがでしたか?
雑誌「ミセス」の連載「きもの紀行」八重山上布特集(2003年 文化出版局)より。取材時に会長 泉二弘明も同行した。
弘:夢のようでした、心まで綺麗に洗われました。帰ってすぐに元通りですけれどね(笑)海ならどこでもいいわけではなくて、石垣島随一の美しさを誇る川平湾が海晒しの舞台です。海が静かな日を狙って、5時間くらい海に晒した後、鳥が来ない場所で天日干しを行います。島にはスコールがありますから、常に空模様とのにらめっこです。
黄色の染料となる福木。島の方々には防風植栽としても身近な存在。
啓:島に育つ苧麻から糸を作り、島の植物染料で染めて、最後は海晒し・・八重山上布は島の大自然の恵みから生まれています。
今回の展示会では12点、色彩豊かなバリエーションに富んだ品が揃いました。
弘:伝統的な「紅露(クール)」染めの着物は2反ご紹介しています。
八重山上布の着物に科布の帯を合わせた装い。白地に紅露(クール)で染めた絣糸が情趣深い。
啓:八重山上布といえば、このような白地に絣柄の着物を思い浮かべる人も多いかもしれませんね。「赤嶋上布」とも呼ばれて捺染で模様を染めています。実は今は捺染の紅露染が入手しにくくなっていますので、この2反は貴重です。
紅露は石垣島や西表島の山林のみに自生する、八重山上布特有の染料。
弘:スタッフの中に八重山上布の大ファンがいてね。女優の樋口可南子さんが本の中で八重山上布を着ている姿を見て一目惚れしたそうです。
手績みの苧麻糸。現在は緯糸のみ手績み糸で経糸はラミー糸を用いている。
啓:越後上布や宮古上布にはない大らかさ、伸びやかさがありますね。着姿に風情が生まれるというか、八重山上布にしか出せない雰囲気があります。
苧麻糸に紅露の染料を捺染している様子。
啓:帯は多彩な品が揃いました。手括りの絣で染められた色柄豊富な中からお気に入りの一反を見つけて、憧れの八重山上布をぜひ手にしていただけたらと思います。
八重山上布 九寸名古屋帯「花織 市松」緑色は福木の黄色と藍を染め重ねている。
会長 泉二弘明が選ぶ必見の一反
八重山上布 着尺「紅露染」
私が選んだのは、白地に紅露染がほどこされた着尺です。これを見ると、初めて海晒しを体験したあの日の感動が蘇ってきます。八重山上布を代表するような正統派の一反で、伝統柄をしっとりと、あえて都会でお召しいただくのも素敵ではないでしょうか。
店主 泉二啓太が選ぶ必見の一反
八重山上布 九寸名古屋帯「絣 水雲」
伝統的な水雲模様を絣であしらった、綺麗な色合いが目を引きます。
石垣島の太陽と海を感じさせる明るい表情で、染料には八重山藍、福木、椎、紅露と、島の大自然の豊かさが詰まった帯です。