平山八重子さんの染織工房を見学させて頂きました

平山八重子さんの染織工房

もう11月に入ったというのに、夏が過ぎ去っていることに気づかない蚊がまだぶんぶんと飛びまわるほどのあたたかい陽気のこの日、待ち合わせの駅に、にこにこと優しい笑顔で迎えに来て下さったのは、染織作家の平山八重子さん。

やわらかな日差しの下、緑道を歩きながら辿りついた場所は、平山さんの作品で草木染めに活躍してくれる木々や草花、食卓を飾る柿や柑橘類など、多くの草木に囲まれた、住み心地の良さそうなご自宅。平山家の可愛いワンちゃんも一緒に元気いっぱいにわたしたちを迎えてくれました。

素朴な農民の織であった郡上紬の再生・復興を果たし、「紬縞織・絣織」の人間国宝に認定された宗廣力三氏(故人)に3年間師事した後、独立され、東京にて染織工房を開かれました。日本伝統工芸展などでも入賞、受賞を重ねられながら、染織の仕事を続けて40年の平山八重子さん。2011年11月10日から銀座もとじにて、4回目の個展を開催させていただきます。個展開催に際して、平山八重子さんの工房を訪ねさせていただきました。

平山八重子 工房見学レポート

「織五省」

平山八重子 工房見学レポート
工房には、3台の機が並び、平山先生のもとに学びに来られているお弟子さんに身近でご指導をされながら、染織の仕事をされていらっしゃいます。

壁には、研究所の卒業時に宗廣力三先生から贈られたという「織五省」と題した下記の言葉が額に入れて飾られていました。

一、糸を経に 心を緯に。美しく、あたたかき やすらぎの きぬを織らん。
一、常に 技法の 研鑚に努めん。創意工夫の技には ニヶの果実をつける。
一、一すじの 糸の いのち を大切に。
一、正された仕事(生活)を 美が 追いかけて行く。
一、糸つむぎ、心をつなぎ、人生を織らん

平山八重子 工房見学レポート
平山さんは、20歳の頃に、ふとしたきっかけでラジオから流れた恩師、人間国宝 宗廣力三先生の「織は人なり 人は心なり」という言葉を耳にしました。これが平山さんと織物を結びつけ、岐阜県の郡上へ修業に行く決心をするきっかけとなり、

今でもこの言葉は平山さんの信条となっているそうです。

「技を感じさせない技」を生涯目指したと言われる宗廣力三先生の織哲学は、技法の研鑚に務めたたゆまぬ努力があってこそ極められる境地で、平山八重子さんは、豊かな感受性とあくなき探究心を持って、宗廣先生のもとで学べる技術と精神をあますところなく自らの血肉にし、ご自分のものとしてこられました。

ご自身の工房を開かれてからは、それまでの歩みの上に、さらにご自分らしく心を織り込んだ作品を数多く生み出していらっしゃいます。

そして、これまでに
第41回日本伝統工芸染織展にて、絣織着物「花筏」で「日本経済新聞社賞」、
第49回東日本支部 伝統工芸新作展にて、吉野織帯「流氷」で「日本工芸会賞」、
第51回東日本支部 第51回東日本支部にて、紬織着物「かなたへ」で東京都知事賞、
第56回日本伝統工芸展にて、紬織着物「空と風と」で日本工芸会奨励賞、
第24回財団法人民族衣装文化普及協会から「きもの文化賞」、
など数々の受賞をかさねられ、正真正銘の実力派の染織作家となられたのです。

確かな織りの技術があるからこそ、自由で伸びやかな、それでいて上質感にあふれた、素朴ながら彩りの美しい草木染めの作品が、平山八重子さんの手から生まれます。美しい色に染め分けられた絣糸が、気負わず、気取らず、踊る様に織り模様を成しています。

上質な絹糸で織られる農民たちのきもの−郡上紬

郡上では、千年以上も前から「曾代絹(ひだいぎぬ)」と呼ばれる、伊勢神宮の神職の装束を織る糸と定められていたほど良質な絹糸の生産地であり、農民たちはその絹糸の生産の際にでる屑繭をつむぎ、自家用の紬を織っていたという歴史があるそうです。その郡上紬の技術と文化を再興させたのが、農業開拓者としてもすぐれた活動をしていた宗廣力三氏です。

郡上紬は、そういった歴史の上にあり、絹や草木の命をいただき、大地の恵みを大切にしながら身に纏うものを織りあげた、農民たちの着物でした。素朴な草木染めの絣糸で織りあげられた色彩世界とシンプルな縞や格子の絣の意匠、上質な絹糸の光沢感が特徴の織り物です。

宗廣先生は、郡上紬の復興・再生のなかで、シンプルな縞や格子の絣模様から半円つなぎ文、丸文、波文、立湧文などの絣合わせも織りも複雑で高度な技術なくしてはなしえないような緻密な意匠へと発展させていきました。平山さんご自身もそういった極めて高い技術を自分のものとして身につけられてきました。
平山八重子 工房見学レポート

しかしながら、平山さんが設計図を描き、機に向かう時間というのは、決して肩に力が入っている感じのない、すべての工程に対し心から楽しまれているような自由さがあり、草木で染められた織り糸の交差に心地よいリズムが響き、織りが進むにしたがって光を放ちはじめるのが見えてくるかのようです。

「織は人なり 人は心なり」

平山八重子さんの工房をたずね、いろいろなお話を聞かせていただく間、こんなに高名な実力ある作家さんなのに、なんと気さくで優しく明るい方なのだろうかと、その人柄にも魅了されてしまいました。そんな魅力的なお人柄の平山さんにお会いし、そして平山さんの作品をあらためて目にすると、「織は人なり 人は心なり」という言葉の意味が体感的に伝わってくる感じがいたします。

銀座もとじ店内でご覧いただける作品からは、織を通じて平山八重子さんの心が語りかけてくる物語が聞こえてくるかもしれません。ぜひ、耳を傾けに足をお運びいただけたらと思います。

平山八重子 染織工房
左上下写真3点:作品を織り始める前の貴重な設計図を見せていただきました。
右上中下写真3点(上から):平山さんの長年の仕事道具である杼。管巻きを用いて横糸を巻きつけた管を杼に入れたところを見せて下さいました。染めにつかう植物の夜叉五倍子(やしゃぶし)、プラチナボーイの壁糸(かべいと)

参考文献:「すぐわかる染め・織りの見分け方」東京美術

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