江戸や明治の人々も殺到した!? バーゲンセールの歴史
初売りにはじまり、季節ごとのクリアランスセールや創業祭、歳末セールなど、1年を通して各所さまざまな名称で開催されているバーゲンセール。お気に入りの商品をお得に手に入れられるのはもちろん、気になっている商品を手ごろな価格で試すことができるチャンスでもあります。
そんな買い物心に火をつけるバーゲンセールですが、一体いつごろから行われているのでしょうか?
バーゲンセールは百貨店発?
バーゲンセールは、1895(明治28)年10月19日に、百貨店・大丸の前身である大丸呉服店が、東京で冬物の大売り出しを行ったことが始まりとされ、この日は"バーゲンの日"という記念日にもなっています。
しかし、一方で1923(大正12)年8月5日に日本橋三越が開催したものを初とする説や、既に江戸時代から呉服店ではバーゲンセールが行われていたとする説などがあり、その起源ははっきりとしていません。
大伝馬町大丸(東京都立中央図書館特別文庫室所蔵)
ちなみに、年始の定番品・福袋は江戸時代に売られていた"恵比寿袋"が原型とされています。三越の前身・越後屋が冬物の売り出し時期にあわせて販売しはじめたもので、中には1年の裁ち余りの生地(反物の裁断時に出た余り布)が入っていたようです。
いつの時代でも"お得に買いたい"気持ちは同じ
"手軽さ"と"安さ"で年間約45億円売り上げた越後屋
バーゲンセールに限らず「お得に買い物をしたい」という気持ちは、現代の私たち特有の消費者心理ではなく、モノの売買が行われる社会においては古今東西変わらず抱くもの。
その心理を上手くついた好例を、江戸時代の越後屋の実績から垣間見ることができます。越後屋は、当時当たり前だったツケ払いを廃して現金払いを導入したり、訪問販売を店先販売に切り替えたりするなど、革新的なビジネスモデルを打ち出して徹底的な効率化とコストカットを実現。「現金 安売 掛け値なし」を掲げ、常連客・一見客問わず安い価格での販売を可能にしました。この施策は引札(チラシ)による宣伝効果も相まって多くの人々の関心を集め、現代の貨幣価値にしてなんと1日約1,500万円、年間約45億円も売り上げたそうです。
これはバーゲンセールの例ではありませんが、これだけの売り上げに繋がったのは、買い物のモチベーションとなる「いいものをお得に買いたい」という消費者の欲求を満たしたことも一因と考えられるのではないでしょうか。また、当時庶民が衣服を購入する際に利用したのは、木綿を扱う太物屋か古着屋が一般的で、高額な絹を扱う呉服屋は高嶺の花でした。けれども、いくらか手軽に利用できるようになったことで、トレンドに敏感で身だしなみにも気を遣っていた江戸っ子のオシャレ欲を刺激したのではないかとも考えられます。
向かって右の店が越後屋 歌川広重 / 東都名所 駿河町之図(国立国会図書館デジタルコレクション)
このように、"安さ"や"手軽さ"に惹かれて町人をはじめとした中間層からの厚い支持を得た 一方、ツケ払いを廃止したことで、既存の呉服屋のメイン顧客だった大名や武家などの富裕層からは良く思われず、また越後屋のやり方に否定的な同業者からは嫌がらせを受けたこともあったようです。
しかし、越後屋に触発されて新たなサービスを展開する呉服屋も登場。尾張町(中央区銀座5・6丁目)にあった恵美須屋(えびすや)は商品を買うと「恵美須銭」を返金するというポイントバックのようなシステムを導入し、話題になっていたのだそう。越後屋のベンチャー精神は、顧客だけでなく同業者にも大きな影響を与え、業界の活性化に貢献したと言えるでしょう。
新聞でも報じられた明治時代のバーゲンの盛況ぶり
バーゲンセールに関しては、1908(明治41)年の東京・松屋呉服店(現・松屋)のエピソードに興味深いものがあります。朝7時に開店するや否や大勢の人々がドッと押し寄せ、3階の売り場へ駆け上がっていったという内容が、大衆紙「東京二六新聞」に掲載されていたそうです。
※引用※ 同紙によると静岡などの遠方からも「子々孫々への話柄(わへい=話題の意)なるべし」と押し寄せた。ある女性は定価より5円安い23円50銭の指輪に「買ってくださらなければ自分で買うわ」と連れの男性にすごんだ。あまりの混雑に「20世紀というものは命がけだ」と驚く人もいた。
出典:NIKKEI STYLE『バーゲンの不思議な魔力 大混雑の風景、明治から』もちろん当時はネットでいつでもどこでも買い物ができる時代ではなかったため、このようなバーゲンセールには今よりもさらにプレミア感があったはず。"催事"ならぬ"祭事"のような盛況ぶりだったのではないでしょうか。
『三井呉服店引札』(日本銀行金融研究所貨幣博物館所蔵)単に"安い"だけでなく、"いいものを安く買える"ことは、買い物のモチベーションを高めるとともに、新たな楽しみを発見するひとつのきっかけにもなるはずです。ECサイトの普及など、購買経路が多様化する今後においても、バーゲンセールは買い物の選択肢の一つとして、私たちの買い物欲や好奇心を満たすイベントであり続けるのではないでしょうか。
【参考資料】
NIKKEI STYLE『バーゲンの不思議な魔力 大混雑の風景、明治から』
東洋経済オンライン『タブー破りまくり「三井・越後屋」のスゴイ戦略』
ISMPublishingLab.『時代を変えた江戸起業家の商売大事典』(コマブックス株式会社)
大丸松坂屋ウェブサイト「福袋の歴史」
丸山伸彦『江戸のきものと衣生活』(小学館)
中江克己『お江戸の意外な商売事情』(PHP文庫)