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藤山千春さん・優子さんの工房「錦霞染織工房」を訪問しました|読みもの

2024年10月18日(金)~20日(日)に開催の「紬織 藤山千春・優子 二人展」に向けて、お二人の工房を訪問させていただき、「吉野間道」の魅力やものづくりへの思いを伺ってまいりました。

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八丈島の自然の美しさを原点に
東京のど真ん中で草木の恵みを染め織る

草木染めの優しい色に浮かぶふっくらとした畝。江戸時代に生まれた「吉野間道」を、現代の色彩感覚で織り続けている藤山千春さん・優子さんの工房「錦霞(きんか)染織工房」は、東京・品川の住宅街の一角にあります。

工房の庭には、臭木(くさぎ)、矢車附子(やしゃぶし)など染材になる様々な植物が育てられ、今日染めたばかりの糸が気持ち良さそうに干されていました。

また庭の隅には、自ら土を掘って作ったという藍甕も。草木染をされる作家さんでも藍染めだけは紺屋さんへ出される方が多いのですが、藤山さんの工房では自分達で藍建て(すくもを発酵させて染料を作る)をされています。

「藍は管理が難しいですが、そこはこだわっています。草木染織家としてのプライドかもしれませんね」と千春さんは笑って仰います。

藤山千春 藤山優子 吉野間道 ハンノキ ヤシャブシ
庭先の榛(はん)の木。工房では実の矢車附子を染料にする。

千春さんのお母様は八丈島の南にある青ヶ島出身。子供の頃は、親戚が住む八丈島に夏休みのたびに訪れ、機音を聞きながら遊んでいたのだとか。島ではかつて絹織物は献上品として尊く扱われ、織物を製作する労苦を共有し支え合ってきた歴史があります。島民の方々は藤山さんのものづくりをずっと応援くださり、毎年冬になると島で採れたたくさんの臭木の実を送ってくださるのだそう。

「小学生の頃は、その臭木の実のガクを取るお手伝いをしていました」と優子さん。

遠く離れていても、八丈島の自然へいつも思いを馳せ、美しい織物を作り続けることで恩返しをしたいという気持ちが原動力になり続けているのです。

藤山千春 藤山優子 吉野間道 黒い染糸
矢車附子の染液と黒く染まった糸。

アスファルトの無彩色が占める東京都心の景色に囲まれながら、これほど豊かな色彩を自在に織り出される。まるでマジックを見ているようです。八丈島との交流や島での記憶は、温もりある美しい色が生まれる理由の一つになっているように思いました。また都心でものづくりをされるからこそ、現代の街並みに合う洗練を兼ね備えた、藤山さんでなければ成し得ない吉野間道が生まれるのでしょう。

織り続けて半世紀、今も魅了され続ける
「吉野間道で本当に良かった!」

吉野間道とは茶人に愛された名物裂の一種で、京都の豪商が名妓・吉野太夫に贈ったことからその名がついたと言われます。平織りの上に浮き織りを重ね真田紐風に立体的に織り出したもので、民芸運動の祖・柳宗悦氏の甥にあたる柳悦孝氏らが復元されました。藤山千春さんは女子美術大学を主席で卒業後、大学の学部長も務められていた柳悦孝氏の工房に入り師事、吉野間道と運命の出会いを果たします。

藤山千春 藤山優子 吉野間道 ふっくらとした畝

柳悦孝氏の元で様々な織りに取り組む中で、吉野間道が特別な織物と知らずにひらすらに織り続けていたとのこと。押入れを2段ベッドにして住み込みで修業に励み、独立した折には省スペースで制作できるよう恩師自ら織り機を設計くださったそうです。

大工さんに拵えていただいた最初の大振りの機は、幼い優子さんを背におぶりながら、おんぶ紐を固定して機織りしたこともある想い出の機です。
優子さんはその頃の記憶はさすがにないそうですが、機織りの音を子守唄代わりに聞きながら、千春さんのそばで玉ねぎ染の自由研究をしたり、遊びながら染織に親しんでいたそうです。

藤山千春 藤山優子 吉野間道 模紗織
優子さんをおんぶしながら織っていた機は、珍しい幅広の竹筬が現役で使われ、今は模紗織用の機になっている。

独立後も吉野間道の注文は途切れることなく、一台また一台と機を増やし、いつしか工房は10名規模に。「吉野間道」は藤山千春さんの代名詞となってゆきました。

「私は、本当に吉野間道で良かった!と思うほど気に入っています」

千春さんは力強く仰います。吉野間道は、浮き織りがあることにより糸の色がそのまま艶やかな面を作って表に出る。映える美しさがある、と。

優子さんも同様に、経糸の色が緯糸に邪魔されずにダイレクトに織り出されること、光の反射があるので着物にするとお顔映りが明るくなる点も魅力としてあげられました。

吉野間道を織る充足感や感謝の思いは、吉野大夫が眠る京都・寂光山常照寺を訪問し、住職様が保持される本歌(先人の主要作品)を見たことで、より揺るぎないものになったといいます。
※毎年春には吉野太夫を供養するお祭り(吉野太夫花供養)が開かれるそうです。

藤山千春 藤山優子 吉野間道 常照寺 掛け軸
常照寺の住職様に頂いた書を吉野間道の布で軸装し飾られている。

千春さん「優子に任せて安心」
優子さん「母は色彩の天才です」

千春さんが工房を立ち上げられて半世紀以上、優子さんが加わってもうすぐ20年になります。現在は、千春さんと優子さんお二人でデザインと織りの実作業をしながら、優子さんはさらに工房全体を見ながら、糸染めの手配、他の織り手さんに経糸・緯糸とデザイン指示書を渡し進捗管理するなどをとりまとめていらっしゃいます。

20年前、当時会社員だった優子さんに、千春さんは「工房を継いでほしい」とまっすぐに伝え、優子さんもごく自然に受け入れられたそうです。

ビルのオフィスでPCを使う毎日から一変。工房に入ってから「温度や季節を感じられるようになった」と仰います。

互いの個性と得意分野を尊重し合いながら仕事され、ぶつかることはほぼないとのこと。
「母は色のセンスが天才的なので、良い先生についているな、得したな、と思っています」と優子さん。
千春さんは「優子の方がずっと知識が豊富。自分とは違う素質があります。アドバイスしたことは一回もないんですよ」このまま優子さんらしい世界を追い求めて欲しいと、大きな期待と全幅の信頼を寄せていらっしゃいます。

藤山千春 藤山優子 吉野間道 パレット 織り機
工房では人気の「カラーパレット」が織り進められている。経緯に浮織を入れる場合は6枚綜絖。足元で経糸の上げ下げを制御する作業がより複雑になる。

槐(えんじゅ)で染めた明るい黄の吉野間道は優子さんが始めた色だそう。また、細かい格子の着尺は優子さんが発案されたデザインです。

「全面浮き織りで大変ですけれど、私は細かい仕事が得意なので」

と、千春さんとはまた違った世界を切り開かれていらっしゃいました。

デザインに悩むと目に入るものが全て縞模様に見えるほど追い詰められるそうですが、そういう時は美術館でリフレッシュ。展示物の色形ではなく「この感覚をもたらす作品を作ろう」と新しい発想を得てくるそうです。

今回の二人展は、藤山千春さんと優子さんの作品を一堂に楽しんでいただける貴重な機会です。
八丈島の美しい織物の記憶と柳悦孝先生との出会いが千春さんを吉野間道へと導いて、そのすべてを優子さんが受け止め継承され、さらに新しい美を求めていらっしゃいます。母娘であり、師弟であり、作家同士であるという特別な関係性を持つお二人が、10/19(土)のぎゃらりートークでは揃ってご登壇されます。
この機会を逃さずぜひご参加くださいませ。

藤山千春 藤山優子 吉野間道 品川区伝統工芸保存協会
「錦霞染織工房」は「品川区伝統工芸保存会」の一員でもある。

多彩な織りの美をご覧ください。
作品の一部をご紹介いたします。

九寸名古屋帯

吉野間道(吉野格子)
浮き織りを経・緯の両方で織りだした作品。
光沢があり、格調高くより華やかな印象になります。

藤山千春 藤山優子 吉野間道 九寸名古屋帯

緯吉野
浮き織りを緯糸のみで表現したもので、軽やかな印象になります。
優しいぼかしの色彩をお楽しみいただけます。

藤山千春 藤山優子 吉野間道 九寸名古屋帯
藤山千春 藤山優子 吉野間道 九寸名古屋帯

模紗織
甘撚りのざっくりとした糸をふっくらと織り上げたもの。ほどよい透け感があり単衣の季節から活躍します。

藤山千春 藤山優子 吉野間道 九寸名古屋帯

着尺

吉野間道を全身にまとう贅沢。浮き織りの光沢感がお顔まわりも明るく演出します。着物には細い糸を使用するため、手間がかかりより高い技術が必要となります。

藤山千春 藤山優子 吉野間道 着尺

角帯

端正でありながら洒落感もあり、紬からお召、袴下まで、幅広く楽しんでいただけます。

藤山千春 藤山優子 吉野間道 角帯

藤山千春 藤山優子 吉野間道

美術学校に通う夢見る高校生は、自分の中に潜む織音の記憶を手繰り寄せるように、そのまま美術大学の進路へ。
あれから60年の時が過ぎ、その母の背中を追うように優子さんも同じ道を歩むようになりました。
都心の工房では機音が響き、お二人の指先に走る瑞々しい幾数本もの染糸は心の思いを奏でるように織り成され、着物や帯となってゆきます。
やわらかな物腰で、「プラチナボーイも織り上がりましたよ。いかがでしょうか。」
その声の響きの底にある覚悟とほとばしる情熱は、私たちの着姿に揺るぎない自信を与えてくれます。

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会期:2024年10月18日(金) ~20日(日)
場所:銀座もとじ 和織、男のきもの、オンラインショップ
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銀座もとじ和織 03-3538-7878
銀座もとじ男のきもの 03-5524-7472
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