第10回:「朧月夜」
『源氏物語』の作者・紫式部の生涯を描くNHK大河ドラマ「光る君へ」が話題となっています。銀座もとじでは、雅な装いの文化が花開いた平安時代や『源氏物語』の世界観をより楽しんでいただけるマンスリーコラムを展開中。物語の主要人物と繋がりが深い「色」や人物像の背景をご紹介しながら、毎月ATENARIさんによる特別制作の和装小物を発表しています。
第10弾は、自由な恋に生きるお嬢様「朧月夜(おぼろづきよ)」に着想した帯留を数量限定で販売いたします。
自由奔放な姫君「朧月夜」との危険な恋
源氏物語の第8帖「花宴」に登場する「朧月夜」。その呼び名は、光源氏と出会うきっかけとなる、「新古今和歌集」で大江千里(おおえちさと)が詠んだ和歌に由来します。
照りもせず 曇りもはてぬ 春の夜の 朧月夜にしくものぞなき
現代語訳:
照らすのでも 曇るのでもない 春の夜の朧ろにかすむ月の美しさに 及ぶものはない
華やかな花見の宴が終わり、ほろ酔いの光源氏。宮中の廊下を「朧月夜にしくものぞなき・・」と若々しい声で口ずさみながら歩く女性に目を留めます。
当時、高貴な女性は大きな声を出さないのが通常でした。光源氏に聞こえるほどのはっきりとした声を発していたことからも、朧月夜の天真爛漫さ、自由奔放さがうかがえます。
宴の後の人恋しさを感じていた光源氏は、美しい女性との遭遇に嬉しくなり、思わず朧月夜の手をとって歌をささやきます。
深き夜の哀れを知るも 入る月のおぼろげならぬ契りとぞ思ふ
現代語訳:
深き夜のしみじみとした情感を知るあなたと私は
入る月のおぼろげではない 強い前世からのご縁でしょう
朧月夜はこの男性が光源氏だと悟り、二人はすぐに恋仲に。これが禁断の恋だと光源氏が気付いたのは後になってからのことでした。朧月夜と関係を持ったことで、光源氏は後の人生を大きく狂わされることになったのです。
朧月夜は帝の「婚約者」だった!
光源氏は都を離れ須磨へ・・
光源氏は、先の天皇・桐壺院と桐壺の更衣との間に生まれた、いわば妾子です。朧月夜は、時の権力者・右大臣の娘であり、母をいじめた本妻・弘徽殿の女御の妹、かつ現天皇・朱雀帝への入内を控えた立場でもありました。
帝の婚約者に手を出した・・・想像を絶する禁忌。やがて二人の関係は朱雀帝の知るところとなり、朧月夜の入内は白紙になり、光源氏は京都から須磨へ移り住むことを余儀なくされました。
朱雀帝と光源氏、二人の男性の間で行きつ戻りつする朧月夜ですが、自らの軽率な行動がいかに人を傷つけるかを学びながら、少しずつ心の成長を遂げていきます。
「朧月夜」をイメージした
限定制作の作品のご紹介
今回はアテナリさんに天然石「ラピスラズリ」を用いた帯留を制作いただきました。朧ろな月の夜・・美しい名前がそのまま色かたちになったような、神秘的で美しい帯留です。ラピスラズリは、古代より神が住むとされる夜空に似ていることから、邪気を払い、幸運を運ぶ石として愛されてきたそうです。
帯留 「朧月夜 Ⅰ」79,200円(税込)
銀、ラピスラズリ/横 約2.5cm×縦 約1.7cm(写真は三分紐使用)
夜空のイメージにぴったりなラピスラズリを帯留めに仕立てました。枠は一部三日月のようにふくらみをもち、シンプルななかに詩情をひそませています。
帯留 「朧月夜 Ⅱ」79,200円(税込)
銀、ラピスラズリ/横 約2.3cm×縦 約2.0cm(写真は三分紐使用)
朧月夜の空のイメージにぴったりな珍しい色あいのラピスラズリを帯留めに仕立てました。枠は一部三日月のようにふくらみをもち、シンプルななかに詩情をひそませています。
源氏物語シリーズコラム
第1回:「藤壺」
第2回:「若紫」
第3回:「葵の上」
第4回:「末摘花」
第5回:「光源氏」
第6回:「花散里」
第7回:「空蝉」
第8回:「夕顔」
第9回:「頭中将」
【源氏物語シリーズ】アテナリ デザイナー角元弥子さんインタビュー
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