第7回:「空蝉」
『源氏物語』の作者・紫式部の生涯を描くNHK大河ドラマ「光る君へ」が話題となっています。銀座もとじでは、雅な装いの文化が花開いた平安時代や『源氏物語』の世界観をより楽しんでいただけるマンスリーコラムを展開中。物語の主要人物と繋がりが深い「色」や人物像の背景をご紹介しながら、毎月ATENARIさんによる特別制作の和装小物を発表しています。
第7弾は、夏の夜、薄衣を残して姿を消した「空蝉(うつせみ)」に着想した帯留と簪(かんざし)を数量限定で販売いたします。
光源氏との逢瀬を初めて拒んだ女性「空蝉」
空蝉とは、蝉の抜け殻を指す言葉で、光源氏が逢瀬を求めて部屋に忍び込んだ時に、上に纏っていた薄衣だけを残してするりと逃げてしまったことから名付けられたものです。
彼女は、もともとは上流貴族の家柄でしたが、父親の死をきっかけに一家は没落。その後年老いた地方官僚へと嫁ぐこととなり、いわば「中流階級」に身を落として暮らしていました。
二人の出会いは光源氏17歳の夏。方違え(かたたがえ・凶方位を避けるために別の方角を経由すること)で宿泊した家に空蝉も逗留しており、光源氏は強い興味を抱きます。
というのも、その少し前の梅雨のある日、男君が集まり女性について談義した「雨夜の品定め」で、光源氏に劣らぬモテ男・頭中将(とうのちゅうじょう)が「女性は中流階級が良い」と話していたのです。帝の皇子として生まれた光源氏にとって上流階級以外の女性と触れ合う機会はほぼないため、好奇心を抑えることができません。
空蝉は光源氏のことを一度は受け入れてしまいますが、再びの逢瀬は断固として拒絶。しかし光源氏は拒まれるほど執着を募らせ、夜の邸に忍びこむも、そこには蝉の抜け殻のごとく、薄い絹衣が一枚残されていただけでした。
それは、光源氏の人生において初めて女性に振られた屈辱的な経験であり、薄絹を手に彼女の香りをしのびながら詠んだ歌に未練が滲んでいます。
うつせみの身をかへてける木のもとに なほ人がらのなつかしきかな
現代語訳:
蝉のように衣を脱ぎ捨てていった人は憎いけれど、のこされた殻(上着)のその人を懐かしみます
「空蝉」をイメージした
限定制作の作品のご紹介
空蝉が残した薄衣をイメージして、有職文様「窠(か)」紋をモチーフとした帯留とかんざしを制作いただきました。
有職文様・・・平安時代以降の公家社会において装束や調度などに用いられた伝統的な文様のこと。
窠紋・・・シルクロード由来で鳥の巣を象ったと言われる文様。以降さまざまに派生し、現代の日本でも木瓜系の家紋などにみられます。
帯留は、シルクロード由来といわれる文様の折り目正しいイメージの中に、ムーンストーンの光の効果でゆれる心情を表現しています。
帯留「窠中月」(かのなかにつき)定価 88,000円(税込)
横2.5cm、縦2.3cm/銀、ムーンストーン
かんざしは、シルクロード由来の文様らしい、少しエキゾチックな雰囲気に仕上がりました。水牛角のナチュラルな色合いが楽しいかんざしです。プラチナ箔を裏貼りした白蝶貝の、やわらかい輝きが装いのアクセントになります
かんざし「唐様Ⅰ」定価 50,600円(税込)幅4.5cm 長さ11cm
飴色水牛角に銀蒔絵、螺鈿(プラチナ箔を裏貼りした白蝶貝)
かんざし「唐様Ⅱ」定価 44,000円(税込)幅3.8cm、長さ10cm
飴色水牛角に銀蒔絵、螺鈿(プラチナ箔を裏貼りした白蝶貝)
源氏物語シリーズコラム
第1回:「藤壺」
第2回:「若紫」
第3回:「葵の上」
第4回:「末摘花」
第5回:「光源氏」
第6回:「花散里」
【源氏物語シリーズ】アテナリ デザイナー角元弥子さんインタビュー
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