第8回:「夕顔」
『源氏物語』の作者・紫式部の生涯を描くNHK大河ドラマ「光る君へ」が話題となっています。銀座もとじでは、雅な装いの文化が花開いた平安時代や『源氏物語』の世界観をより楽しんでいただけるマンスリーコラムを展開中。物語の主要人物と繋がりが深い「色」や人物像の背景をご紹介しながら、毎月ATENARIさんによる特別制作の和装小物を発表しています。
第8弾は、「光源氏」と「頭中将(とうのちゅうじょう)」という二人の魅力的な男性を夢中にさせた「夕顔」に着想した帯留と簪(かんざし)を数量限定で販売いたします。
光源氏を”逆ナン”?扇に和歌をしたためアプローチ
光源氏の恋人となる多数の女性の中で唯一、女性からアプローチをしたのが、今回ご紹介する「夕顔」です。
光源氏が恋人・六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)の元へ通う道中、下町の粗末な家の垣根に見たことのない白い花が咲いていました。それは貴族の庭では見かけない花。「何の花だろう」と付き人と話していると、家の奥から子供が出てきて、花を手折りこれに載せてご覧くださいと、香を焚きしめた扇を差し出します。
扇には美しい文字で和歌が添えてありました。
心あてに それかとぞ見る白露の 光そへたる夕顔の花
現代語訳:あて推量ながら、源氏の君でしょうか。白露が光を添える夕顔のような美しい方は
詫びた住まいにしては気品が感じられると、光源氏は強い興味を抱き歌を返します。
寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる 花の夕顔
現代語訳:近くによってはっきり御覧になったらどうですか。黄昏時にぼんやり見えた夕顔の花を
そんな和歌のやりとりから二人は出会い、第4帖「夕顔」だけで19もの和歌が詠まれています。身分は高くないものの、夕顔の積極的なアプローチや和歌から滲み出る知性、奥ゆかしさと美しさに光源氏はすっかり魅了されました。
当時、男女のコミュニケーションは男性からアプローチするのが通常だったので、最初の和歌を女性から贈られた驚きと、住まいと不釣り合いな風雅な感性と教養、その意外性が光源氏の心を捕らえたのです。
別れた後もずっと忘れられない女性
第7回の空蝉(うつせみ)と同様に、夕顔は中流貴族の女性です。そして、男子が恋人談義に花を咲かせた「雨夜の品定め」で、親友の頭中将が「女性は中流階級が良い」と経験談を語っていた、まさにその女性こそが夕顔でした。気位の高い上流階級の女性とは違い、素直で控えめで心安らげる存在であった夕顔。頭中将の通いが多くなったために正妻の嫌がらせを受け、夕顔は自ら身を引き別れることになったのでした。
夕顔が頭中将の元恋人だと知ったのは後日のことですが、光源氏もまた頭中将と同様に、夕顔と出会ってからというもの他の恋人(六条御息所)への通いが途絶えてしまいます。不義理にしていると自責の念を抱きつつも、抑えきれず今日もまた夕顔のもとへ・・。
しかし満月の夜、何らかの物の怪のしわざか夕顔はあっけなく帰らぬ人に。光源氏は泣き崩れ、長きにわたり床に臥せて己の身勝手さを悔やみ、守ってあげられなかった愛しい人への懺悔と未練で苦しみ続けたのでした。
「夕顔」をイメージした
限定制作の作品のご紹介
今回もアテナリさんに、夕顔のエピソードをモチーフとした帯留とかんざしを特別に制作いただきました。
帯留「温光」
長く記憶に残る人柄の温かさを、陽光のようなあたたかい黄色の素材を組み合わせて表現しました。白蝶貝がやわらかく潜むシトリンとクリームイエローの南洋真珠。ふたつの素材のとりあわせにより、シンプルながら上質感のある帯留です。さまざまなコーディネートのやさしげなアクセントになりそうです。
帯留「温光」定価 88,000円(税込)
横2.7cm、縦1.8cm/銀、白蝶貝とシトリンのダブレット、南洋真珠
かんざし「夕顔Ⅰ」「夕顔Ⅱ」
夏の日暮れどきに花を咲かせる夕顔をモチーフにしたかんざしです。 落ち着いた銀の質感には出過ぎない華やかさがあり、また自然な植物の姿からくるナチュラルな雰囲気も楽しめます。
かんざし「夕顔Ⅰ」定価 57,200円(税込)
幅4.5cm 長さ11cm/飴色水牛角に金銀蒔絵
かんざし「夕顔Ⅱ」定価 48,400円(税込)
幅3.8cm、長さ10cm/飴色水牛角に金銀蒔絵
「夕顔」の花はいつ咲く?
開花時期は7月から9月頃。ウリ科ユウガオ属の植物で、ナス科のアサガオとは全く別の種類です。つる性の蔓を伸ばし、大きな白い花を夕方に一晩だけ咲かせる一年草。開花時期が夏場に集中するのは、夕顔が暑さに強い植物だからだと考えられています。
源氏物語シリーズコラム
第1回:「藤壺」
第2回:「若紫」
第3回:「葵の上」
第4回:「末摘花」
第5回:「光源氏」
第6回:「花散里」
第7回:「空蝉」
【源氏物語シリーズ】アテナリ デザイナー角元弥子さんインタビュー
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