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10月7日、「銀座生まれの大島紬」第3作目の織り上げ式を行いました

2018年10月7日、「銀座生まれの大島紬」第3作目の織り上がりを祝う「織り上げ式」が行われました。今回織り上がったのは、前回に引き続き“吹雪”と題された泥染めの大島紬。秋晴れの爽やかな空に恵まれた午後、ご縁をいただいた田所様は軽やかな薄羽織をお召しになってご来店くださいました。 奄美大島出身の店主 泉二は、2010年の奄美豪雨で壊滅的な被害を受けた大島紬産地の再生を願って、2012年に大島紬専門店「銀座もとじ 大島紬」を開店。5周年を迎えた昨年2017年に、奄美から織り機を運び念願の「銀座生まれの大島紬」をスタートさせました。一本の糸が、図案師、締め機師、泥染め師等多くの職人の手を経て精緻な絣糸となり、この銀座の地でアンカーである織り手の清田がお客様の目の前で織り上げます。

"双子の兄"の星空のような絣柄に惹かれて

田所様が今回の大島紬の柄を初めてご覧になられたのは、約一年前に遡ります。大島紬は通常、一度に二反分の経糸を機にかけてから織り始めるので、同じ柄の反物が二つ織り上がります。アンサンブル等をお作りいただける、二反分の長さがひと続きになった「疋物」が存在するのはそのためです。田所様が大島紬店にご来店になられたときにはその一反目、いわば“双子の兄”が織られている頃でした。 "双子の兄"の織り上げ式レポートはこちら ひと目で柄ゆきをお気に召してくださり、「星空のようだ」という印象を持たれたとのこと。泥染めの深いこげ茶地に細かい蚊絣がランダムに織り出された文様が、澄んだ夜空いっぱいに広がる満点の星空のように見えたとおっしゃいます。 瞬く星のごとく点々と浮かぶ「蚊絣」は大島紬ならではの「締機」により防染され染め残った部分。その白い部分が経糸と緯糸でクロスするように、緯糸を数回織り込んでは針の先で経絣と緯絣がきちんと合うように調整する「絣合わせ」を行いながら、全長13メートルにもなる反物を織っていきます。 絣合わせをしながらの織り工程をはじめてご覧になったときは、とても驚かれたそうです。 「これほどまでに手間がかかるものだとは知りませんでした。もっと適当に、と言うわけではないですが、緯糸を入れてはトントン、入れてはトントン、と手元を見ずにスピーディにできるものかと思っていました」 約二年前、人生で初めてお誂えになった着物が泥染めの無地の大島紬で、軽い気心地や大島紬独特の風合いを楽しまれながら、次の大島紬は絣模様の入ったものを、と思われていたそうです。 さりげなくも凝った星空のような絣模様は、趣がありながら主張しすぎず、帯や羽織も様々に楽しめそうだと、織り上がるまでの数ヶ月間は、時おり機の上に角帯や羽織用の反物をのせてコーディネートのイメージを膨らませるなどして楽しみにしてこられました。 「待ちに待った、という感じですね」 織り上がった反物のかかる機を見つめながら、しみじみと口数少なにおっしゃる田所様。「一番切れ味の良いのを持ってきました」と弊店の和裁士のスタッフが断ちハサミをお渡しすると、織り手の清田が切り始める位置をご誘導します。 通常は、織り上がった反物を機から取り出す作業は織り手本人が担いますが、「銀座生まれの大島紬」では必ずお客様と共に行わせていただきます。数ヶ月の間、お召しになられるお客様のことを思いながら、来る日も来る日も向き合ってきた反物を、そのお客様と一緒にハサミを入れるというのは、奄美で織り手をしていた時にはない喜びと緊張の瞬間です。 「では、まいりましょうか」と清田がお声がけすると、田所様は改めてハサミを握り直し、手元を見つめ焦点を定め、慎重に刃と刃を重ねていきます。数度のハサミの運びで無事に生地の端までを断ち落とすと、店内は大きな拍手に包まれました。全店からスタッフがかけつけるのも恒例となりました。お客様と喜びの時間を共にさせていただく織り上げ式は、私たちスタッフにとっても心待ちにする記念すべき日なのです。
夢のプロジェクト「銀座生まれの大島紬」
「軽いけれど(手間がかかっていることを思うと)重いですね」 取り出された反物を手にして、照れながらも嬉しそうに微笑まれる田所様。へその緒のごとく、経糸の房がまだついたままの、生まれたての反物を愛おしそうに見つめられて、両手の指先で、生地の感触をかみしめるように確かめていらっしゃいました。 こちらの大島紬はこれから奄美大島へ一度里帰りして、組合の検査を受けた後でお仕立てへ進みます。

着物一枚で、気分まで変われるのが楽しい

当日も森康次さんの羽衣羽織を素敵に着こなされ、着物通の雰囲気を漂わせる田所様ですが、着物歴はこの二年ほどとのこと。世代的に時代劇等の影響を受けて、「いつか着物を」と着物姿への憧れのようなものがどこかにあった中で、「そろそろ着物を着てもいい年頃かもしれない」という気持ちに自然になられたのだそうです。 今では休日にお出かけする際の「普段着」ともおっしゃるほどに着慣れていらっしゃる田所様に着物の魅力を伺うと、少し考えたあとで「変われることかな」とおっしゃいます。着物を着ることで、見た目の変化だけでなく、気持ちの変化が楽しいとのこと。 いつもの景色、いつもの街も、着物を一枚着るだけで非日常になり、新鮮に映る。その着物の魔法を、上手に生活に取り込んで楽しんでいらっしゃる様子でした。 また、着物を着る喜びに加えて、作る喜び「お誂え」も日頃より楽しまれていらっしゃる田所様。染織や金工の作家さんへお好みのモチーフやイメージをお伝えして、お打ち合わせを重ねながら世界にひとつの品を完成させていくという工程は、刺激的で贅沢な時間だとおっしゃいます。 「デザインに正解はないですが、迷ったときは作家の方にお任せすると良いものに仕上げてくださいますね」 眼鏡がお似合いの田所様は、織り手の清田とはメガネ談義に花を咲かせていたそうです。当日かけていらした丸眼鏡も、フレームのデザインからオーダーして作られた特注品とのこと。身につけられるひとつひとつにこだわり、デザインに「物語」のあるお洒落を楽しまれていらっしゃいます。 次回は、初めて「プラチナボーイの大島紬」が機にかかります。雄だけの蚕が吐く夢の糸、プラチナボーイ。細く、長く、強く、光沢の素晴らしい絹糸が綺麗な色に染められてもうすぐ銀座に届きます。機にかかりピンと張り出された経糸はどんな輝きを放ち、指先にどんな弾力を感じさせてくれるのか。織り手の清田をはじめスタッフ一同、ワクワクしています。織り始めましたらまたご報告させていただきますので、ぜひご期待ください。

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