※こちらは2022年に公開した記事です。(着姿写真 宮古上布)
宮古上布や越後上布・小千谷縮の魅力を、「糸づくり」の大切さとともにご案内いたします。
【目次】
極上の上布とは−「東の越後、西の宮古」
なぜ高級品なのか−価格差は「糸の尊さ」
「手績み糸」と「ラミー糸」の違い
「宮古上布」「越後上布」「小千谷縮」それぞれの魅力
宮古上布「組合もの」と「作家もの」
極上の上布とは−「東の越後、西の宮古」
上布とは、苧麻(ちょま/からむし)の糸を用いて平織にした上質な麻布のこと。江戸時代に上納布として発展し、糸が細ければ細いほど、織りあがった布が薄ければ薄いほど珍重されました。
新潟県南魚沼市と小千谷市を中心に生産される「越後上布・小千谷縮」、沖縄県宮古島で生産される「宮古上布」は国の重要無形文化財(以後、重文)に指定。「東の越後、西の宮古」と呼ばれ、上布の最高級品として着物通の憧れの存在となっています。
なぜ高級品なのか−価格差は「糸の尊さ」
無地ほど難しく、一反分の糸を揃えるのに何年もかかると言われます
重要無形文化財 越後上布 「無地 生成り」
銀座もとじでは、盛夏の最高のお洒落着として長きにわたり上布をご紹介してまいりました。15年以上前からお届けしてきた上布の産地レポートや作り手によるぎゃらりートークのレポートは弊社の宝物であり、今も本サイトでお読みいただけます。(このページの下部にリンク集があります)
過去のレポートでは店主・泉二が蓑に藁靴を履いて雪晒し体験。
「越後上布」の里を訪ねて - 第2回
私たちは、日本の手仕事を応援する「伝える職人」でありたいと願い、自分の目で見て耳で聞き、自分の手で触れ、感じたことをお客様へお伝えしております。
上布の産地を訪問するたびに、伝統の手技を何とか未来へ繋げようという人々の懸命な努力を感じる一方で、その努力が追い付かないほどに、作り手の高齢化と生産数の減少が加速していると実感します。状況は年を追うごとに厳しさを増し、直近では重文指定の宮古上布は年間8反、小千谷縮はわずか3反の生産見込みとなっています。
重文に指定されるような最高級の上布は、経糸緯糸ともに手績み(てうみ)の糸で作られています。苧麻の繊維を髪の毛ほどに細く割いて、一本一本の糸を手でつなぎ合わせているのです。
越後上布の糸績みの様子
着物一枚に必要な反物の長さは約13メートル。経糸が約1000〜1400本、緯糸も合わせると山手線一周分の糸が必要とされ、糸を用意するだけでも一年以上かかります。
左:手績みする前の福島県昭和村産の苧麻(からむし)の繊維/右:績んだ糸は「おぼけ」と呼ばれる桶に貯めていきます
端的に言えば、価格には「糸づくりにかかる手間と時間」が反映されています。(その他、絣糸作りや織りの手間ももちろん関係します)今現役で糸績みをしている70代80代の「おばあ」達は子供の頃から何十年に渡り糸績みをしてきた達人であり、新しい世代が同様の品質で糸を績むのは至難の技です。
「いつか上布を」と思われている方がいらっしゃいましたら、ぜひこの機会に実物を手で触れていただけましたら、古来より憧憬の的であった上布の魅力をご理解いただけるかと思います。
「手績み糸」と「ラミー糸」の違い
「手績み糸」は苧麻の繊維を爪で細かく引き裂いて、一本一本撚りつないだものです。昔はどんな麻糸も人の手で作られていましたが、現在では紡績機械によって作られた麻糸もあり「ラミー糸」と呼ばれます。
贅沢な熨斗目模様が目を引く、林宗平工房作の作品
古代越後上布 「紫熨斗目」
経緯ともに手績み糸のもの、経糸は強度のあるラミー糸で緯糸は手績み糸のもの、経緯ともにラミー糸のもの等、使用する糸によって価格は大幅に変わってきます。
経緯ラミー糸の使い勝手の良い伝統的な亀甲絣
越後上布 「亀甲 白」
ラミー糸は細さが均一です。一方手績み糸は、着物用に細く、かつ細さの均一なものが選別されますが、それでも若干の太細が不規則に混じり合い、味わいのある布表情を作ります。手仕事の美は、美しさとは均質であることではないと気づかせてくれます。
「宮古上布」「越後上布」「小千谷縮」それぞれの魅力
苧麻の手績み糸を用いて作られていますが、その表情は全く異なり、南国と雪国それぞれの風土を思わせる個性豊かな魅力を発しています。ぜひオンラインショップで画像を拡大し、地風の違いなどをご覧ください。
トンボの羽のような薄さと贅沢な艶めきが美しい
宮古上布 着尺「異国装飾紋」
「砧打ち」の様子。生地を柔らかくし宮古上布らしい光沢が生まれます
宮古上布は宮古島産の苧麻の糸で作られ、仕上げの「砧(きぬた)打ち」によりまるで蝋引きのような艶やかな光沢を放ちます。越後上布・小千谷縮は福島県昭和村産の苧麻の糸を中心に作られ、雪上で反物を広げる「雪晒し」を経て仕上げる清涼で静謐な質感が特徴です。小千谷縮は、緯糸に強い撚りをかけて湯もみをすることで布が縮み、表面に「しぼ」と言われる凸凹が見られます。
やわらかなシボ感がふわりと肌に添う至福の着心地を作る
重要無形文化財 小千谷縮「みじん縞」
小千谷縮の制作工程である「湯もみ」の様子
重要無形文化財指定の要件は以下の通り。
宮古上布
・すべて苧麻を手紡ぎした糸を使用する
・絣糸は、伝統的な「手結」または「手括り」によるもの
・純正植物染による染色
・手織り
・仕上げ加工は木槌による手打ちを行い、使用する糊は天然の道具を用いて調整する
※伝統的工芸品の指定要件では「締機」による絣糸作りも含まれる
越後上布・小千谷縮
・すべて苧麻を手績みした糸を使用すること
・絣模様を付ける場合は、手くびりによること
・地機で織ること
・シボとりをする場合は、湯もみ、足ぶみによること
・晒しは、雪晒しによること
宮古上布「組合もの」と「作家もの」
宮古上布の作家、新里玲子さんと仲宗根みちこさんの作品も必見です。反物に組合(宮古織物事業協同組合)の証紙こそありませんが、宮古島産の苧麻を原料とする手績み糸で作られた、れっきとした宮古上布です。 新しい風を感じるモダンで軽やかな色彩やデザインがお洒落通を魅了してやみません。
仲宗根みちこ作 宮古上布「格子」
新里玲子作 宮古上布 九寸名古屋帯 「絣格子」
上述の通り、上質な宮古上布は糸の調達が最大の難関です。組合に所属していないお二人は宮古島の「おばあ」たちから糸を買い取っています。細い糸だけでなく、太い糸もどんな糸も、おばあが績んで持ってきてくれた糸は全部買い取る。その心意気と信頼関係により糸が集まり、細い糸は着尺に、太い糸は味わいを生かして帯に、など工夫されています。
左:手績みした糸を撚りかけする様子/右:新里さんがおばあたちから買い取った手績みの糸
「上布」に関する読み物一覧
宮古上布
宮古上布作家 仲宗根みちこさんのぎゃらりートークを開催しました
越後上布
重要無形文化財「越後上布・小千谷縮」工房&雪晒し見学~続編~
八重山上布
日本の麻・八重山上布~自然に育まれた素材と技の結晶~|和織物語