街道にも秋桜が咲き
「そろそろ、またお着物を着てみようかしら」
そう思われているお客様も多いのではないでしょうか。
間もなく、ぎゃらりー泉にて、香月美穂子さんの初個展を開催いたします。
自然の風景や身近な草花からデザインを創作、草木染めの瑞々しい色彩が浮織の織り模様により、奥深くしなやかな表情をみせてくれます。
一本の帯に込められた作家の思いとは・・・。
個展直前、香月さんに今のご心境をお聞きいたしました。
【対談】 香月美穂子さん×銀座もとじ 『香月美穂子 初個展~時を染め、織る~』に向けて
弊社文化企画デザイン室 續(以下 續):
香月さん、大変お待たせいたしました。
当初の予定が1年半延期となり、ようやく初個展を開催できますことを心から御礼申し上げます。
香月美穂子さん(以下 香月):
私自身、3月生まれの影響か染め色も春色が多く、また出品展示会が春から初夏が多く、 大丈夫かなとも思いましたが紫や濃い黄色などの帯もあり、こうして秋に開催できてうれしく思っています。有難うございました。
九寸名古屋帯「桃の節句によせて」
香月美穂子さんの「織り」に心を射抜かれた日
續:
2009年でしょうか、代表の泉二と共に西部支部展で香月さんの作品を拝見して、「この方の織り!」と。その後、染織展、本展で作品を拝見いたしました。
博多から電車で1時間ほど、大宰府近くにあるご自宅兼工房に訪問させていただいたのが2015年12月21日、東京から一人で参りましたので、あの日のことは今でも鮮明に覚えています。
九寸名古屋帯「夏椿2」
日本伝統工芸展に入選した「夏椿」を再考
香月:
初めて續さんをお迎えした日、鮮やかな緑のコートで婦人雑誌から抜け出た様な續さんの美しさに母と二人圧倒されたこと、こちらも鮮明に覚えております!
續:
玄関に素敵な刺繍の額装があり、どなたの作品ですか?とお聞きしましたね。
香月:
そう、壁に掛かったタペストリーには目もくれず、刺繍の衝立に一直線。2年前まで(90歳まで)ずっとフランス刺繍を教えてきた母のものでしたね。
續:
御母上の作品、あの日の写真ですが掲載させていただいてよろしいでしょうか。(画質が心配ですが!)
リビングにいらっしゃる御母上にご挨拶させていただき、四季の草花がお隣さん同士、仲良く自生する中庭を拝見して、とてもあたたかな気持ちになったことを忘れません。暮らしの中にある織りの風景です。
香月美穂子さんのお母様の刺繍(2015年撮影)
香月:
あの時は年末でしたから、咲いていた花は椿くらいだったでしょうか。玄関からずっと染料になる木々の説明をしていたような。枇杷・梅・ひいらぎ南天など。
續さんも「草木染の作家の皆さんも植えていらっしゃいますね」と笑っていらっしゃいましたね。
續:
香月さんは愛知県名古屋市生まれ、東京の大学では日本文学を学び、卒業後は企業に勤務。長年、お勤めをされていました。
香月:
はい。会社員生活は途中転職前にアルバイト時代が少しありますので、24年くらいです。
48歳で退職してからは、頼まれ仕事で経営支援アドバイザーや所属元の福岡文化連盟での事務職のバイトをちょこちょこ7年ほどやっていました。
母の介護が必要になってきてからは、仕事は全て辞め一応織り専業です。(介護に追われてあまり作れませんが・・・。)
續:
コロナ禍での御母上の介護、安心・安全、何よりも大切なことです。
今回、お目にかかれないことは大変残念ではありますが。ということは、働きながら、織りの技術を習得されたのですか?
香月美穂子さんと浮き織りとの出会い
九寸名古屋帯「花菖蒲の頃に」
香月:
大学卒業後に実家に帰省、派遣で働いていた合間の3年間、お隣さんのご紹介で中村慶子先生に出会いお教室に通うようになりました。 先生が主宰するグループ「あいまいもこ」に在籍し40年近くになります。
續:
草木染め、織りの基礎を学ばれ、浮き織りとの出会いはいつですか?
香月:
1990年代、北欧のデザインに惹かれ、雑誌のスウェーデン特集で紹介されていた北欧ツアーに単身飛び込み参加して、ダーラナ地方の民族博物館で浮き織りと出会いました。
それから、手仕事のお店を始める友人に頼まれてフィンランドに一緒に行くことになりまして。 桧山タミ先生のお料理教室メンバー主催でフリー時間にフィン織、手紡ぎセーター、手紡ぎ草木染タピストリーを見て回りました。
90歳までフランス刺繍をずっと教えてきた母を見てきましたので、どうも結婚はしないかな、と思った30代後半からは生涯をかけて打ち込める物つくりをしたいと思っていました。そして不器用な私に「織り」は合っているかも、と。 50歳までには仕事を辞め織り一本にしたいと思うようになりました。
續:
大きな決断ですね、なかなかできません。
コロナ禍だからこそできた作品
草木で染色された糸
續:
香月さんは日本工芸会に所属されていますが、コロナにより東日本支部展、染織展と東京開催は中止が続きました。
先月、第68回 日本伝統工芸展が開催となり、この一年、お目にかかれない作家の皆様の作品を拝見できて心から嬉しく思いました。
香月さん、「コロナ禍でのものづくり」はいかがでしたでしょうか。
香月:
昨年は落ち着かない日々が続きましたが、慣れてきてこの時期だから気を落ち着けて作品作りをしよう!と決め、特に今年は普段なかなか出来ない集中力の必要な着物を織ったり、糸の整理をしたり、充実していたかもしれません。
最初から帯や着物は草木染での作品なので、庭に染料の草木を植えていることもあり、毎日庭に降りて眺め触れていることからだと思います。月や星を眺めるのも好きなので、以前、月や星に絡む帯も作りました。(雲間に月・きらめく星たち)
ただ作品テーマが庭の花とか身近なものになった気はします。
續:
えっ!お着物?
今回は限定6本の帯、お着物はどこを探してもなかったです(笑)
香月:
あれっ?ありませんでしたっけ?(笑)
なんて、まだまだ未熟なので自分用のものしか作れていません。
今回でやっと4作目です。今回は縦に縞、横に浮き織りを入れたので、仮仕立てをお願いした方と悩みながら仕上げました。まだまだ勉強中です。
續:
拝見したいです!実は、お客様から「香月さんはお着物は織られますか?」と、問い合わせがございました。
香月さんはご自身でもお着物をお召しになられますので、 思考錯誤を繰り返し、着心地良く表情が豊かなお着物が届く日を心待ちにしております。
工芸展入選作品を含む6点の帯
九寸名古屋帯「福木並木に光」
平成29年西部伝統工芸展入選作
續:
筑紫野から銀座に届いた帯、香月さんが日々の暮らしの中で感じられた細やかな心境を感じ取れます。作品に込められた思いを拝読し、じっくりと帯を眺めながら、自分の思いも重ね合わせます。そうすると、共鳴し合えて心がじんわりしてきます。
「もう、この帯は手放したくない」と、何度も店舗に出す前に思いました(笑顔)
香月:
実は私も毎回手放したくない子もいます(笑)
それでも作品全体の色合わせ、バランスを考えて送らせて頂きました。
お客様の反応が楽しみでもあり、怖くもあり、です。
續:
工芸会の入選作品3点を含めた渾身の6本。
本当にありがとうございます。ご紹介できる喜びを噛みしめております。
草木染めの染め色が瑞々しく、浮き織りによる奥深い織りの表情、 無地から総柄、素材はやわらかもの、紬のお着物にも締められる帯です。
草木の生命を染めた色
續:
2年前、銀座の柳を初めてご送付させていただき、40周年記念展の帯を制作いただきました。やわらかな色彩の諧調、浮き織りにより上品な表情となり、印象的な帯でした。 初めての柳染めはいかがでしたでしょうか。
40周年記念作品「銀座の柳染」(2020年)
40周年記念展に寄せられた香月美穂子さんからのメッセージ
香月:
御店を知ったきっかけが20年近く前の婦人雑誌掲載の記事だったので、自分がまさか染めさせて頂き、帯に作れるなんてほんとにびっくりしました、と同時に大変感激しました。
今秋は「銀座の柳染めをプラチナボーイの糸に染める」という、私にしたら大仕事でした。
更にこっくり染まり、生命の色に感動しました。有難うございました(9月25日に染めましたよ)
銀座の柳で染めたプラチナボーイの糸
續:
ありがとうございます。今から一年後の発表会が楽しみです。
香月さんはじめ、全国各地の産地、作家の皆様にご送付させていただきますが、生葉、もしくは枯らして染められます。プラチナボーイも同様に日本列島を駆け巡る、ものづくりリレーです。
作り手の皆様のご協力があってこそ、本当に感謝しております。
香月:
名立たる皆様と一堂に展示されることは緊張しかないです。
「今できる自分の最善を尽くす」、その気持ちで挑んでいます。
續:
ご自身の作品がお客様と出会い、その御方の着物人生に彩りを添え共に時を歩むこと、 素敵なことですね。
香月:
普段は地元でのグループ展でマフラー、ショールを販売することが多く、直接お話させていただくことはありますが、帯はほとんど非売、御店での販売のみです。
お求めくださったお客様が身に着けてお写真をSNSでアップされているのを拝見し、 しっくり着こなしていらっしゃる御姿に本当に嬉しく思います。
續:
いつの日か必ず香月さんの帯を締められたお客様と銀座の「和織」店舗で交流していただけるように、それは私の夢でもありますので、必ず叶えます!
香月:
ありがとうございます。また、頑張れます。
續:
日本工芸会の西部支部は染織のみならず、陶芸、人形、木竹工、素晴らしい作家の方々が沢山おられます。学び、影響されておられること、教えてください。
香月:
西部支部は本当に凄い方が沢山所属されていて、展示会の飾りつけの際など先生方から作品について、飾りつけの仕方、物づくりへの心がけなど学ぶことが非常に多いです。
厳しい指導をしていただく事もあり、勉強会も。有難いことだと思います。
今後もできる範囲で染織部会の一員として活動したいと思っています。
續:
香月さんは離れていても、インスタグラムのライブ配信や最新情報、お世話になっている西部支部の作家の皆様のこと、いつも応援エールをお届けしてくださいます。大変心強いです。ありがとうございます。
今回の、初個展、一人でも多くのお客様に御覧いただきたいですね!
香月:
はい。緊張しますが、今の自分を出し切りましたので、もう、我が子を旅立たせた気持ちで、見守るしかございません。
續:
香月さんの帯、一歩一歩、丁寧にしっかりとご自分の道を選択され歩まれてきた御姿を感じられます。しなやかで、自立していて、我慢強い。
そんな帯との出会いは不思議で、「あと、一歩」、「今日は自分らしく」、「少し支えてほしい」、思いを込めて締めると、本当に力が湧いてきます。
この度は限定6本の初個展となります。
深まる秋、是非、銀座にお出かけください。
皆様の御来店を心からお待ち申し上げております。