今月の泉二弘明のおすすめの逸品 伝統工芸刺繍作家 森康次作 紬羽織「向い龍」
2012年4月19日より、伝統工芸刺繍作家・森康次さんの個展を開催させていただきます。
森康次さんの作品に施された刺繍を目にするとき、反物を広げたり、絵羽や羽織を広げたりする瞬間、まるで宝箱を開けるときのような感動と驚きで、しばし時を忘れてしまいます。
ものをよく見てその命のありようを「形」にする
森羅万象のあらゆる事象にデザインのヒントを得ながら、 「ものをよく見てその命のありようを『形』にする」。
「明度を工夫し、色数を抑えた色彩と、縫い技の変化によって立体的で奥行があり、流動的な表現を意識しています」、と森康次さん。
下絵の付け方に工夫しながら、生地に溶け込むようにほどこされる爽やかな刺繍は、花も鳥も菱模様も龍も森さんが対象に向ける愛情あるまなざしとともに縫い込まれ、装いの中で、小さな面である刺繍の世界が広がっていくかのようです。
森康次(もりやすつぐ) プロフィール
1946年1月5日、京都市中京区、「ぬい屋」と呼ばれる、 刺繍業を家業とした一家に長男として生まれました。
白生地を持って町内を一回りすれば、絞りの着物も友禅の着物も染め上がるという
着物とは縁の深い地域環境で育たれました。
長男が家業を継ぐことが普通であった時代、1961年に家業に従事されます。29歳のとき京都市伝統工芸技術コンクールの出品を皮切りに京都市展、京都府工美展、日本伝統工芸近畿展、日本伝統工芸染織展、国際テキスタイルコンペテションなどの公募展に出品し、受賞を重ねらます。その後、1989年、日本工芸会正会員の認定を受けられています。
きもの文化の中で、生かされ発展してきた日本刺繍。
「大げさに言うのなら、わたしの人生もこの中にあり、この中で生かされてきました。」
とおっしゃる森康次さん、現在は、京都上賀茂に工房を構え、技術を後世に伝えるべく、意欲的に活動をされています。
4月19日から開催される個展「日本刺繍展 森康次展」では、刺繍人生一筋の森さんの心を写し取ったような、爽やかで優美な素晴らしい作品を多数ご紹介しています。ぜひ足をお運びください。