店主 泉二弘明のおすすめの逸品 最高級 能登上布 着尺「緻密な菱細工 白絣」
今月の泉二弘明のおすすめの逸品は、夏の麻着物 最高級品の能登上布のご紹介です。 能登上布は、着こむほどに体に添い、柔らかさを増して極上の着心地へと変化していく、贅沢な夏きものです。(今月ご紹介の逸品作品は、女性にもおすすめです。) 能登上布とは、石川県の能登半島の羽咋(はくい)市から葛西町あたりを中心として生産されてきた歴史ある麻織物です。 現在では、年間生産反数が300反程度という希少な「能登上布」。元来は、亀甲と十字、蚊絣で男物だけが生産されていた能登上布ですが、今では、櫛押捺染(くしおしなっせん)やロール捺染などの"括りではない"絣技法を取り入れて、亀甲絣、十文字絣、蚊絣、麻の葉などの絣模様が緻密に施された、様々な能登上布の作品が生産されています。
山崎さんの元でご活躍される織り子さん
織る前の糸の準備。能登上布の糸の整経。整然としていて美しい作業工程です。
織る前の糸の準備。能登上布の糸の整経。整然としていて美しい作業工程です。
能登上布の歴史
約2千年前、第10代崇神(すじん)天皇の皇女(ひめみこ)が、能登の鹿西(ろくせい)町(現在の中能登町)に滞在したときに地元の人々に機織りを教えたことが起源といわれる能登上布。中能登地区一帯は、古くから苧麻の生産地として知られていました。 江戸時代の初め頃まで、この地で作られる良質な麻糸は「近江上布」の原糸として使用されていましたが、織りの技術向上の努力が実り、文政元年に初めて「能登」の文字を冠した、「能登縮」が誕生します。その後も改良が加えられていった「能登縮」は、明治後半には「能登上布」と称するようになりました。 「越後上布」にも劣らぬ上質な麻布の「能登上布」は、近江商人によって全国に販路を広げ、昭和初期の最盛期には麻織物の生産量が全国一を誇るまでになります。 上布は、夏のふだん着として人々に愛用されてきましたが、洋装化の波に押されて次第に衰退し、現在では織元はたった一軒となりました。現在、能登上布は昭和35年(1960)に石川県の無形文化財に指定されています。
現在、たった一軒の織元となった、山崎麻織物工房の山崎仁一さん(中央)と奥様の山崎幸子さん(右)。
左は、工房を訪れた、銀座もとじ 二代目 泉二啓太。
左は、工房を訪れた、銀座もとじ 二代目 泉二啓太。
涼感あふれる着心地
能登上布の特長は、麻の糸の上質さ、そしてひとつひとつ丹念に柄合わせをして織り上げた絣にあります。緻密で美しく、素朴な絣模様が涼感を一層引きたててくれる織物です。独特の光沢感のある織り上がりの質感も魅力的です。 糸を先染めして絣つけを行いますが、その工程として櫛押捺染(くしおしなっせん)や、板締め、ロール捺染といった、熟練を要する技法が用いられています。 その柄行の都会的なシンプルさには、ファンの多い織物で、幅広く帯合わせもお楽しみいただけ、年齢を問わず、末永くお楽しみいただけるお着物かと存じます。 織上がりは、しっかり感がありながら、大変しなやかでさらりとした肌触り。蒸し暑い夏に、風が体を通り抜ける感覚を感じられる、涼感あふれる夏のおきものです。ぜひその着心地をお楽しみください。 また能登上布は、大変お手入れがしやすく、ご自分で洗濯していただけますので、夏の日常にお気軽にお召いただけます。シワになりにくく、ちょっとしたシワにも霧吹きを用いて、手軽にお手入れしていただけます。 ※実際のお手入れ方法は、作品により異なる場合がございますので、お手入れ詳細につきましては、店舗スタッフにご確認ください。 緻密で細やかな通好みの絣から、古典柄でありながらモダンさのある絣柄まで、すっきり都会的なお洒落をお楽しみいただける能登上布は、帯や角帯、小物合わせをお楽しみいただけ、末永く重宝いただけるお着物かと存じます。
こちらは、「櫛押し捺染」の工程。今回ご紹介の逸品も櫛押し捺染によるもので、より手間暇がかかる熟練の技を要する技法です。 約1200本の糸を巾約20cmほどの枠にかけて整然と並べ、その上から染料をつけた櫛形の板を押し付けて染め、絣糸を作ります。
大量にあるこのメジャーのようなものには、絣柄が細やかに記されています。糸を張った枠の糸の束の合間に置かれており、捺染の際の絣柄の目印となります。
大量にあるこのメジャーのようなものには、絣柄が細やかに記されています。糸を張った枠の糸の束の合間に置かれており、捺染の際の絣柄の目印となります。
こちらは、「ロール捺染」の技法。糸に、絣柄をこのローラーのような道具で、糸に染めつけていきます。ロール捺染では、「蚊絣」「亀甲」の絣糸が作られます。こちらは、「蚊絣」になります。