創業者 泉二弘明のおすすめの逸品 紬織作家 平山八重子作 角帯 銀座の柳 × 草木染め
今月の泉二弘明のおすすめの逸品は、日本工芸会正会員 染織作家 平山八重子さんの希少な角帯作品をご紹介いたします。
すべて草木の恵みによる、美しい色彩のグラデーションで織り成された素晴らしい織りの表情は、暖かな音色が響いてくるようなぬくもりある質感を湛えています。 平山八重子さんは、素朴な農民の織であった郡上紬の再生・復興を果たし、人間国宝に認定された故 宗廣力三氏に3年間師事した後、独立し、東京にて染織工房を開きました。その後、日本工芸会の正会員として作品展へ出展、数々の受賞を重ねられています。 信頼感ある確かな技術でファンの多い平山八重子さんの魅力は、まずその優れた織の技術にあります。
平山さんの東京の工房。
家の周りは草木染めの 染料となる沢山の植物に囲まれています。
波や円など、織りで実現するのは困難な美しい曲線をも見事に操る卓越した技術、また作品ごとに様々な技法を駆使して、思い描いた意匠を形にしていく、柔軟に駆使できるだけの技法を体得し、現代的な色彩やデザインセンスで、平山さんならではの深い魅力を湛えた作品を作り続けていらっしゃいます。 平山八重子さんの工房には、研究所の卒業時に宗廣力三先生から贈られたという「織五省」と題した下記の言葉が額に入れて飾られています。 一、糸を経に 心を緯に。美しく、あたたかき やすらぎの きぬを織らん。 一、常に 技法の 研鑚に努めん。創意工夫の技には ニヶの果実をつける。 一、一すじの 糸の いのち を大切に。 一、正された仕事(生活)を 美が 追いかけて行く。 一、糸つむぎ、心をつなぎ、人生を織らん 「技を感じさせない技」を生涯目指したと言われる宗廣力三先生の織哲学は、技法の研鑚に務めたたゆまぬ努力があってこそ極められる境地で、平山八重子さんは、豊かな感受性とあくなき探究心を持って、宗廣先生のもとで学べる技術と精神をあますところなく自らの血肉にし、ご自分のものとしてこられました。 そして、この「織五省」から醸し出されるような、あたたかさ、美しさ、まっすぐで、誠実な雰囲気を、平山八重子さんご本人こそが、お持ちでいらっしゃるように感じられ、またそんな平山さんの手から生み出される作品は、卓越した技ながら「技を感じさせ」ない素晴らしさがあり、いつも美しい色彩とあたたかなぬくもりに満ちています。
今月の泉二弘明のおすすめの逸品では、そんな平山さんが手掛けられた、珍しく希少な“角帯”作品のご紹介です。緑、茶、ベージュ、紺の彩りで織り成された美しいグラデーション模様。
自然界の植物の恵みをたっぷり含んだ、あたたかくも複雑な色彩の奥行きを一枚の布に織り上げています。平山八重子さんの織物はすべて、草木染めによるものです。こちらは、銀座の柳、阿仙、ロッグウッド、桃皮、墨、藍、臭木などが使用されています。 平山八重子さんの素材のバリエーションの豊富さ、そこへ重ねる色とのバランスのセンスの高さは、飽くなき探究心の賜物です。常に前を向いて挑戦を続け、作家として40年余り。銀座もとじとのご縁はすでに10年以上となりました。 郡上紬の流れをくみつつ、さらに平山八重子さんの自由な発想で糸を染め織りあげていく織物は、お召しになった人の身体に添って作りだされる微妙な凹凸で、様々な深い色と表情を作り出します。ぜひ極上の織りの世界をご堪能ください。