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Vol.36 糸からのこだわり プラチナボーイ~男の着物 商品紹介~|男のきものWEB講座

糸からのこだわり プラチナボーイ

「プラチナボーイ」は、長いきものの歴史の中で、実現不可能とされてきた夢を、21世紀の今まさに叶えることのできた、史上初の蚕品種の名です。「プラチナボーイ」の価値は、その品質の高さだけにとどまらず、生産履歴の明確なものづくりが、本当の意味で作り手と製品、そして消費者を繋ぐことを実現した点にもあります。 これまでは、養蚕農家は自分の作った繭がどのような糸になり、さらにどんな着物になるのか、一生知ることがないのが普通だったのです。「プラチナボーイ」の糸で作った着物が完成し、その着物を、生みの親、育ての親の皆様に直接見ていただいた時、感無量の涙が溢れました。 「プラチナボーイ」は、こうして日本人の叡智の果てに、新たな出会いと絆を生みました。そんな"糸からのこだわり"が生んだ新たな製品が、「プラチナボーイ」の真の姿なのです。以下の商品はその中のほんの一部です。画像や文章による解説では届かないものを、ぜひ店頭で手にとってお確かめ下さい。 【オリジナル型】【世界初!オスだけの蚕】プラチナボーイ小紋「柳芽」

「プラチナボーイ」の秘密

「プラチナボーイ」誕生の経緯は、これまでにも多数触れておりますが、その新蚕品種生誕のしくみは、専門的なお話となるため理解しずらい世界ではあります。しかしながら、「プラチナボーイ」製の着物を手にする誰もが、非常に興味を持っておられることかとも思います。そこでここでは、雄だけの新蚕品種を誕生させた技術的な内容について、少しだけ紐解いてご紹介いたします。
古くから、雄の蚕の吐く糸の方が、雌のそれよりも糸質が良いことが知られており、雄だけの糸の実用化は長年の養蚕業界の夢でもありました。2005年に財団法人大日本蚕糸会「蚕業技術研究所」が、世界に先駆けてその夢を叶える、雄だけの蚕品種「プラチナボーイ」の誕生に成功しましたが、それは、高品質の糸質と付加価値のある商品づくりのための素材を呈することで、養蚕業界の新たな可能性を生み出そうという試みでもありました。
そもそも雄だけの蚕というものを、どうやって作りだすのか?という問いについてですが、これはつまり、「雄のみしか孵化しない卵」の作出によって実現しています。 この研究は、蚕業技術研究所の大沼昭夫博士によるもので、37年もの歳月をかけ、致死遺伝子を利用した平衡致死理論に基づく蚕卵の実用化に成功したのです。養蚕の歴史は、品種改良の歴史でもありますが、基礎研究をも含めると非常に長い年月を経て、完成した奇跡の成果ともいえます。 ではどうすれば、雄だけが孵化する卵を作ることができるのでしょうか? 蚕が雄になるか雌になるかを決定する染色体には、Z染色体とW染色体があり、これらの染色体の組合せがZZとなると雄が、ZWとなると雌が生まれます。このうち、W染色体には劣性の致死遺伝子*を制御する正常な遺伝子(図1、図2の+)が存在しないため、ZWとなる雌のZ染色体に劣性の致死遺伝子(L1またはL2)がある場合には、その雌は孵化しないのです。 図1はこの原理を示したものです。ただし、図1の左上は通常の雌、右上はガンマー線を照射して作出された、劣性の致死遺伝子(L1、L2)を持つ「特別な雄」となります。これらの雌雄をかけあわせると、産まれた卵から雌はふ化できないのです。ところが、ここまでの理論では、雌が全くふ化しないとなると、この「特別な雄」を維持させることができないという更なる問題が起こります。
雄のみが孵化する平衡致死の原理 雄のみが孵化する平衡致死の原理
そこで今度は、「特別な雄」を維持するために、あらかじめ別途、「特別な雌」を作り出しておく必要が出てきます。図2に示したように、劣性致死遺伝子(L1、L2)を抑制する正常な遺伝子(+)が存在するZ染色体の一部を、ガンマー線照射を行ってW染色体に連結させるという手法により、最終的にW染色体が正常な遺伝子を持つ「特別な雌」を作り出すことに成功。そしてこの、「特別な雌」と「特別な雄」を交配すると、雌の卵は致死遺伝子で死ぬことなく、この両種を維持することが可能となったのです。
平衡致死の蚕を維持する原理 (平衡致死系統) 平衡致死の蚕を維持する原理(平衡致死系統)
要点だけの説明に留めても、非常に難解なお話かと思いますが、実際の研究には気の遠くなるような技術開発の経緯があり、この新種を生み出した技術的手法もさらに複雑な説明が必要です。けれども、こうした研究者たちの存在があって初めてこの世に誕生したものが「プラチナボーイ」であるということもまた事実であるのです。 なお、人工的に突然変異を起こすというと、自然に逆らう行為のようでもありますが、染色体の転座が引き起こす突然変異は、自然界でも多く発生しているそうで、「プラチナボーイ」はその発生を人工的にコントロールすることに成功した画期的な事例と言えるでしょう。つまり、「プラチナボーイ」は、雌が死滅するのではなく、雄のみしか生まれないという特殊な品種であるということになります。多くの研究現場では、その研究成果がこうして実際に消費者の手に渡る製品として完成するに至ることは極めて稀なことでもあり、現実に社会の役に立てるというのは研究者冥利に尽きることだと「プラチナボーイ」の関係者は語ります。
プラチナボーイの糸
こうして誕生した「プラチナボーイ」は、飼育し易い雄だけというメリットもあり農家の方に好評で、その繭から取れる糸は、細く、長く、強く、これまでにない高品質な糸として生産に関わる人々からも称賛されてきました。そしてその糸から作られた着物は、かつてない着心地であると、袖を通した多くの方が絶賛しています。
蚕業技術研究所の資料によると、「プラチナボーイ」の繭糸は長さが1,464m、細さが2.66デニール**で、普通の繭糸が長さ1,300m前後、細さが3.0デニール前後であるため、データ的にも優れた数値を示しています(※いずれの数値も蚕の個体差や養蚕環境により変動します)。 2008年には、さらに細い糸となる三眠蚕の「プラチナボーイ」が登場し、これは実に1.7デニールの細さで、通常の三眠蚕の1.9デニールよりもさらに細い糸になります。この「プラチナボーイ」製の反物はすでに入荷済みで、その手触りのよさに関係者一同感心しきるばかりです。 着物の価値は、もちろんこうした数値的なスペックのみで決まるものではありませんが、他製品との違いを知る基準として「プラチナボーイ」が見せてくれる優れた性能は、糸からこだわったものづくりの成功例として、今後の着物作りの大きな標となるでしょう。昆虫の吐き出す糸が、これほどまでのドラマを生み出すと誰が考えたでしょうか。着物を織りなす、素晴らしい奥行きのある世界は、まだまだここに始まったばかりです。銀座もとじはこれからも、そうした新しい世界への扉を求め続けます。

*致死遺伝子の解説

胚発育にとって重要な遺伝子のDNAに欠失がおきると、その遺伝子は正常に働くことが出来ず、その胚は発育が停止します。このように、欠失が生じ死に至らしめる劣性の働きをする遺伝子を劣性致死遺伝子と称します。

通常は正常な遺伝子が相対する染色体にあって働くので問題は生じません。

しかし、この事象をカイコの性染色体に応用すると、Z染色体にある劣性の致死遺伝子を抑える正常な遺伝子がW染色体には無いので、ZWであるメスの胚では劣性の致死遺伝子が働くために、胚の発育は途中で停止します。

**デニールの解説

「デニール」は、生糸の太さ(繊度)を表す単位。1デニール=糸長450mの重量が0.05gであるもの。上記の繭糸の繊度は、繭1個から引き出される糸に対する繊度で、通常は繭9個の糸を束ねて1本の生糸とするため、絹糸1本の繊度は27デニールと表記されます。

提供:財団法人大日本蚕糸会 蚕業技術研究所

 

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