80年代初頭よりパリを拠点にアーティスト/クリエイティブディレクターとしてご活躍の河原シンスケさん。ご自身もファッションとして着物を楽しまれ、「銀座もとじ男のきもの」開店当初からのご縁の中で、これまでも浴衣やバッグなどのデザインをしていただいております。 「銀座もとじ 男のきもの オリジナルコレクション2017秋冬」では、コレクションのテーマである「光」をモチーフに多数の作品を制作いただき、今回特別に、初めて手掛けられたという「角帯」の制作現場に同行させていただきました。
プロフィール
河原シンスケ(アーティスト/クリエイティブ・ディレクター)
80年代初頭よりパリを中心にアーティスト活動を開始。 様々なインターナショナル企業ともコラボレート。 サロン「usagi」のコンセプターでもある。 ファベルジェのアニメーションフィルムは、ポンピドーセンターで上映。 パレ・ド・トーキョウや国立ダンスセンターでの作品発表。 La Rochelle のリゾートホテル「cote ocean」の総合デザイン。 サントリーHIBIKI招待アーティストとして、パリ、ロンドン、NY等で展覧会開催。 エルメス本社「プチ-h」で世界一点ものデザイン作品発表継続中。 日本橋富山館で、富山蛭谷和紙での屏風絵を発表。 Line スタンプ「パリラパン&ネコジャン」をソニーデジタルエンターテイメントより発表。 2016年10月京都国際映画祭で西本願寺行徳院で展覧会。 2016年12月サントリープレミアムモルツとコラボレーションデザインパッケージ販売。 2017年Art Salon SCENEにて「Forme」を表現した作品展を開催。
河原シンスケさんと銀座もとじ
ご自身もお着物通でいらっしゃる河原シンスケさん。元々ご実家ではお母様が着物を着られていて、茶道・華道・謡いなど、日本文化に囲まれた環境だったそうです。お着物に目覚めるきっかけは意外にも、大学卒業後に海外に渡られてからだったそう。フランスでの生活の中で海外から見た和の文化の素晴らしさを再発見した、と言います。 河原さんと銀座もとじとは実は2002年男の着物開店してすぐの頃、ご来店いただいた時からのご縁です。そして最近では、2015年に雑誌『Numero』の河原さんとマルチタレントYOUさんとの連載「シンYOU散歩」の中でもご来店頂きました。
オリジナルコレクション コラボレーション作品
アーティスト活動をはじめ、エルメスやバカラ、ルイ・ヴィトンの広告などで多彩なお仕事を手がけられ、洋服のみならず着物通でいらっしゃる河原シンスケさんですが、デザインだけでなく自分の手で着物を制作されるのは今回が初めてとのこと。そこで男のきもの2017年秋冬のコラボレーション企画のひとつ、角帯の制作現場にご一緒させていただきました。 アトリエいっぱいに張られた約6.5mの白生地を目の当たりにして「面白そう!」と声をあげる河原さん。 手際よく道具と手順の確認をするとまずは筆を取る前に、原寸大の原画(クロッキー)を元に仕上がりのシュミレーションに入ります。しっかりと時間を使い配置が決定したところで、筆を手に取り、紙との違いを噛みしめるように、布の感触、張り、筆の感触、色のにじみ方、ひとつひとつ確かめるように丁寧に筆を置いてゆきます。ひとたび筆を走らせ始めると、そこからの筆の進みは流れるようにとめどなく、鮮やかな手さばきでを描き上げていきます。その様子は、たとえジャンルが違えど職人の手仕事そのものでした。
アーティストとしての作品づくり、さらに初めての角帯の制作でありながら、着姿に対する強いこだわりは、やはりご自身が着物通であるからこそ。色についても自分で着た時をイメージして着物に映える色、奇をてらわない、それでいてありきたりにならない色選びを意識して制作をされたそう。余談ですが、角帯制作の中で「今度は友禅もやってみたい」と意欲を示されていた河原さん。今後のコラボレーション企画もぜひご期待ください。
ウサギと丸紋
今回手描きで制作頂いた角帯の1つは、河原シンスケさんが描き続けているモチーフでもある兎の丸紋のデザイン。兎を描くきっかけとなったのは初めてパリに降り立った時、空港の滑走路に「兎」がいたことに驚き、深く心に残ったことからだそう。大学卒業後、強い思いを抱いて渡仏した河原さんの目に映った兎の姿は何かを暗示しているかのようでもあり、以来ずっと描き続け、今では河原さんの作品の中で無くてはならないシンボリックな存在となっています。 こちらの角帯は、光り輝く月と兎と連綿と連なる山並みのイメージからデザインされたもの。日本でも兎は月の使いとも言われ「ツキを呼ぶ」動物として縁起ものとしても浸透しています。
パリの夜景
もう1つは「パリの夜景」と題された、エッフェル塔が印象的なデザイン。現在も日本とパリを行き来する河原さんの目に映るパリの風景を 自身ののフィルターを通して描かれた作品です。全面に薄明るい夜の雲が描かれ、正面には並木と夜空を背景に輝くエッフェル塔が、そして着た時にはさりげなく後ろに凱旋門が来るように配置したデザインは、見えないところに秘めた河原さんの遊び心が楽しめる作品です。元々の原画ではエッフェル塔と凱旋門が対となって並ぶ配置でしたが、制作現場でのアレンジでデザインが出来上がりました。
額裏
「光」をテーマにした今回のコレクションにインスピレーションを受け、『光のパワー』という想いで描かれたデザイン。凛とした黒の世界に、鮮やかに冴える大きな富士山と、うさぎたちが配置されています。
信玄袋
2016年に河原さんがプロデュースされ、ご本人も愛用中の信玄袋です。
直感的・感覚的なものづくり
「つまようじ一つを彫り上げて一人で仕上げる仕事も、多くの人が関わる大規模なプロジェクトも、モノづくりをするという点で気持ちは同じ。作るモノによって手の動かし方は違うけれど、イメージが先にあって、そこに遊び心を加えながら形にしていくのが自分のスタイル」とおっしゃる河原さん。自分の直感を信じ、感じたものを形にしてゆく、そのワクワクする気持ち、それが遊び心となりユニークな個性に繋がるのかもしれません。