産地にスポットライトを当てる”コトづくり”をしたい
銀座もとじに欠かせない存在となった極上の国産シルク、プラチナボーイ。纏ったときの軽やかさと上品な光沢。しなやかなドレープと皺になりにくい質感。着て心地よく、装う姿も美しい、理想の絹糸です。「糸からこだわったものづくりがしたい」。そう願い続けてきた銀座もとじとプラチナボーイの出会いは、運命的でした。店主泉二は、自信をもってお客様にお奨めすることができるプラチナボーイの反物に、蚕種の改良、養蚕から、製糸、染色、織り、仕上げまで、関わった人の名前を全て記載した証紙を貼ることを決めました。トレーサビリティの役割をもつこの証紙には、泉二の「産地にスポットライトを当てるものづくりをしたい」という思いが強く込められています。
今回で3シーズン目を迎えるこのプラチナボーイ物語ツアーは、証紙にとどまらず、着物をお召しになるお客様に産地を巡り、実際に工程を見て、生産者に会っていただきたい! という泉二の思いから始まりました。ツアーは全3回、約半年の間に、第1回目はプラチナボーイが糸を吐いて繭になるまでの過程を見るために茨城県の養蚕農家へ、第2回目は繭から糸を紡ぐ工程を見るために群馬県の製糸工場へ、第3回目は糸が白生地になる工程を見るために滋賀県のちりめん工場へ訪問します。
今回は2017年度プラチナボーイ春繭ツアーの第2回目、繭から糸ができるまでの工程を学ぶべく、群馬県安中市へと行ってまいりました。
群馬県安中市へ
今年の夏は曇りや雨の日が多くどんよりとした空模様が続いていたため天候が何よりの心配事でありましたが、当日は昨日までの雨はすべてまぼろしだったのではないか、と思うほどの快晴でした。きっと参加者の皆様の思いが届いたのでしょう、カラリと気持ち良いコンディションで参加者御一行を乗せたバスは群馬県へと向かいました。
第2回目の前半は座繰製糸を体験するために群馬県安中市の「蚕絲館」へ、後半は器械製糸の工程を見学するために、同じく群馬県安中市にある碓氷製糸へ訪問します。日本では明治10年頃までは座繰製糸が繊維業の主力でありましたが、生産性がよくないことや生産者によって完成にばらつきがあることなどから、徐々に器械製糸へと移行しました。明治5年に官営富岡製糸場が創業開始したことも大きく関係しています。器械製糸の特徴は、全ての作業が機械化したわけではないという点です。第2回のツアーは時系列に沿って訪問するため、どの作業がどう機械化したのか、また、どういう作業は機械化できないのかを実際に自分の目でみて知ることができるのも魅力の1つです。
蚕絲館にて、座繰り体験を行う
銀座から群馬県安中市・蚕絲館までバスで約2時間半かけて到着しました。バスから降りる一行を、蚕絲館の東さんと平石さんがあたたかくお出迎えしてくださいました。
蚕絲館ではご自身で蚕から育てた繭を「上州座繰器」という手回しの道具を使って糸にしており、染織作家やメーカーに向けて、オーダーメイド仕様の絹糸を販売しています。東さんは16年前、京都で染織の勉強に励む中で「糸」そのものに関心を持ち、群馬県の赤城山の山麓で座繰りをするおばあちゃんを訪ねたそうです。当時、糸屋に陳列する絹糸しか知らなかったという東さんは、軒先の小屋でカラカラと回る歯車の音、黒くすすけた天井にたちのぼる白い湯気、繭が煮えるタンパク質のにおい、弓と鼓(ともに座繰器の部分名)からほとばしる水、このような繭から糸が生まれる現場はお伽話のようで、現代の日本に「座繰り」という手仕事の技術が生業としていまも息づいていることに驚いたそうです。座繰りをして生活したいと強く思い、そのあとすぐに群馬に移住し、製糸工場での勤務を経て、中之条町で知人らと蚕糸館を創業しました。当初は糸作りを中心に活動し、繭は農家さんと契約して全量を購入していましたが、数年でそれは難しいと知り、養蚕を勉強し、2007年からは繭を自家生産するようになったそうです。
挨拶を終え、さっそく上州座繰器の説明がはじまります。左手でくるくると回しながら、右手の親指と人差し指で繰られていく糸の太さや滑らかさを確かめる様子に、参加者のみなさまは釘付けになっていました。東さんが簡単そうに行うのでわからなかったのですが、実際にやってみると右手と左手でまったく異なる作業を同時に行うのは非常に難しく、「糸の調子を確かめることに集中すると、左手を動かすことを忘れてしまう! 」という声が体験した方から数多く聞こえてきました。
座繰り体験のあとは工房内を案内してくださいました。1階の廊下には機が置かれているのですが、その足を置く場所を枕にして、かわいい猫がスヤスヤと気持ちよさそうに寝ていました。養蚕農家では、ネズミが繭をかじってダメにしてしまうのを防ぐために昔から猫を飼うそうで、蚕絲館の猫もネズミを捕まえてはご主人様に嬉しそうに見せにくるそうです。
碓氷製糸工場にて器械製糸の工程を見学する
午後は碓氷製糸株式会社にお伺いし、工場内を案内していただきました。繭から生糸を生産する器械製糸工場は、日本国内だとこちらの碓氷製糸場と山形県の松岡製糸場の2か所のみです。あとは長野県に、小規模の国用製糸といわれる製糸場が宮坂製糸所と松澤製糸所の2か所あるに留まり、全国の養蚕農家で飼育される約6割の繭が、ここ碓氷製糸工場に届きます。
日本中から届く生繭が、どのようにして生糸となりどのような荷姿で出荷されていくのか
前述しましたが、機械化されても人の手が必要な工程がまだまだあることがわかります。特に選繭のエリアで作業していた女性の、玉繭・くず繭を捌くスピードは感動ものです。ぜひ実際に行って見てみていただきたいほどです。
第2回目のツアーが終わり、今年のプラチナボーイ春繭ツアーも残すは第3回目11月の長浜ちりめん工場での白生地製造工程見学のみとなりました。お客様からも「第1回目の時はあまりこの先のイメージがつかめなかったのですが、今日プラチナボーイの繭たちが糸になっていく姿を見て、実感が湧くとともに、これが着物になって自分の手元に届くことを想像し、愛着も湧いてきました。」「一粒の糸から出る糸を愛しく感じました。最後、どんなお着物にしようかを考え始めています。」というお声をいただき、工程が進むにつれ、お客様のプラチナボーイに対する愛着の高まりが感じられます。第3回目はいよいよ糸から1枚の反物になる工程を見学・体験します。