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重要無形文化財「越後上布・小千谷縮」工房&雪晒し見学

2013年3月14日 <きもの紀行編> 重要無形文化財 「越後上布・小千谷縮」 工房&雪晒し見学 「銀座もとじ店主 泉二弘明と行く日本きもの紀行」、第1回目として、国の重要無形文化財、そしてユネスコ無形文化遺産に指定の「越後上布」や「小千谷縮」の工房と雪晒しを見学に、8名のお客様とともに、雪深い新潟県南魚沼市六日町を訪れました。

「銀座もとじ店主 泉二弘明と行く日本きもの紀行」について

“自分の目で見て、自分の耳で聞き、自分の手で触れる”ことをモットーとし、日本全国の各産地へと足を運び続けてきた店主の泉二が、その貴重な体験をぜひ皆さまとともに、という思いから、「銀座もとじ店主 泉二弘明と行く日本きもの紀行」をスタートいたしました。第1回目の今回は、「越後上布・小千谷縮」の工房と雪晒しを見学に、新潟県南魚沼市六日町を訪れました

越後上布と雪

「越後上布」が生まれた新潟の冬

山々の美しい稜線の広がりに、真っ白な雪と焦げ茶の木々がコントラストをなした銀世界の新潟まで、新幹線に乗り込んだ東京からは、あっという間でした。

雪がしんしんと降る越後湯沢駅には、越後上布や塩沢紬の織物工房を構える林宗平工房 二代目の林正機さんのご子息が迎えに来て下さいました。店主泉二が林宗平工房に制作をお願いしている“特別な”越後上布がちょうど機にかかっていて、ベテランの織子さんが織って下さっているという工房まで、私たちを案内してくださいました。 雪国の車道を走る車の中から、間近に雪を眺めると、徐々に降り積もった雪が、バームクーヘンのような層を成しています。どのくらいの高さになるのか伺うと、2メートル半から3メートル90センチほど、とのこと! “湿度が高い”という形容は、日本の真夏のためにあるものと思っていましたが、雪国の冬は、湿度が高いのだそうです。 「越後上布」が生まれた新潟の冬は、雪がすべてを覆い尽くし、空気中に多くの水蒸気を含むようになります。この自然環境こそが、越後上布の生みの親、と林さんはご説明くださいました。

越後上布の作り手・林さん

「上布(じょうふ)」とは・・・

手うみした糸をためていく苧桶(おぼけ )
手うみした糸をためていく苧桶(おぼけ )

「上布(じょうふ)」とは、江戸時代、幕府への上納品として用いられたことから、そう呼び名の付いたといわれる上等な麻織物です。 越後上布、能登上布、近江上布、宮古上布、八重山上布 などがあり、それぞれ 新潟県、石川県、滋賀県、沖縄県宮古島、沖縄県八重山諸島(石垣島、竹富島、与那国島など)で生産されています。 上布の特徴の一つに、「糸績み(いとうみ)」があります。苧麻(ちょま)と呼ばれる麻の繊維を爪と指先で細かく切り裂いて、撚り合わせて紡いで糸にしていきます。

一反分の糸を績むだけでも約8~10ヶ月はかかると言われるほど、難しく熟練の技を要する工程です。その上布の糸は繊細で、織り上げられて布の状態になると大変丈夫で強いのですが、糸の状態では、乾燥には弱く、すぐ切れてしまいます。 そのため、乾燥を嫌う「糸績み」には、“湿度が高い”ことがとても大切で、雪深い新潟の自然環境が、上質な糸作りに適した湿度をもたらしてくれるようで、雪こそが"越後上布の生みの親"と言われる所以です。

越後上布の「重要無形文化財指定要件」 5つの指定要件について
5つの指定要件の一つ目に、「すべて苧麻を手うみした糸を使用すること」とあります。 福島県昭和村で作られる「苧麻(ちょま)」という麻糸の原料を用いて、その繊維を爪と指先で細かく切り裂いてつなぎ、細く均一な糸をつくるという伝統的な作業は「苧績(おうみ)」と呼ばれます。その伝統の技法を守って作られた糸を用いることが指定要件のひとつとなっております。

絣くびり(=絣くくり)

苧麻を手績みして出来上がった糸は、次に絣柄の模様となる箇所に印を付け、綿糸でくくっていく「絣くびり」という工程に進みます。「絣くびり」の工程は、林宗平工房の2階にて、見学をさせていただきました。 絣模様の図案に基づいて作られる木羽(こば)定規または紙テープによって、糸の束に墨印をつけ、綿糸で固く巻きつけ、防染していきます。こちらもまた大変集中力と根気のいる、気の遠くなるような作業であり、伝統的に行われてきた技です。

図案に基づいて作られた紙テープ。紙テープを用いて墨印をつける

図案に基づいて作られた紙テープ。紙テープを用いて墨印をつける

墨印の箇所をくびり糸(綿糸)でしっかりと括る。括った糸を染めて、くびり糸をほどいたもの

墨印の箇所をくびり糸(綿糸)でしっかりと括る。括った糸を染めて、くびり糸をほどいたもの

越後上布の「重要無形文化財指定要件」 5つの指定要件について
5つのうちの二つ目は、「絣模様を付ける場合は、手くびりによること」とあります。 糸を束ね絣模様に合わせて綿糸を用いて括っていく、大変根気を要する防染のための工程で、ひとつひとつ丁寧に手作業で行っていきます。

極細糸で織られる究極の越後上布

最初に訪れた六日町の工房では、織り子の石神さんが、地機でひたすら織りを進めてくださっており、窓枠全体が白いキャンバスのように、窓の外は雪に覆われていました。乾燥を防ぐため、暖房も付けずに、厚着して、お尻の下の電気毛布だけで暖を取りながら、何日も何日も織り続けてくださっています。

織り子の石神さん

機にかかった経糸と緯糸は、雪がもたらす蒸気をゆっくり含みながら丈夫な布に織り上がっていきます。

林宗平工房

これこそが、まさに店主泉二弘明が、林宗平工房にご依頼し、制作を進めていただいている特別な作品です。1日7時間ほど織り続けても、約4センチほどしか進まないほどに、極細の糸を用いて織られているのです。糸が極細な分、織り上がった部分の布の風合いには、ベテランの織子さんである石神さんも、これまでにない感触なので、どれだけ糸が細くて薄手に織られているかがわかると教えてくださいました。

昨年の8月から織り始めてくださって、まだ半分に満たない程。それまで、石神さんが絣模様の手括りもされていたのですが、石神さんが織りに専念できるよう、石神さんの機織りの師匠でいらっしゃる方が絣括りを手伝ってくださっており、今年の夏ごろまでには完成を目指して、励んでくださっています。 この機にかかっている極細の糸は、林宗平工房の家宝として保存されてきた極細糸が用いられており、これほど細い糸で織られる越後上布はこの作品で最後になるだろうと、林さんはおっしゃいます。

地機で織る

越後上布の「重要無形文化財指定要件」 5つの指定要件について
5つのうちの三つ目は、「地機で織ること」とあります。 織り上がると大変丈夫になる苧麻糸も、糸の段階では大変繊細で、乾燥を嫌います。そのためより地面に近い状態で織り進める方が湿気を含みやすいため、地機を用いて糸をいたわりながら織り上げられることが指定要件の一つとなっています。

越後上布の生産反数

越後上布の生産反数

越後上布の生産反数は、江戸時代の最盛期には、年間20万反にも及んだという記録があるそうですが、現在ではなんと、昨年は年間34反、今年は現在までで28反という希少性。 その中で、これほどの時間をかけて丁寧に苧績み(糸作り)から絣くびり、そして織りの工程へと進み、やっと仕上がっていく一反の価値の重みが図りしれません。この大切な越後地方の歴史ある織物の文化が途絶えぬようにと祈るような思いで、工房を後にしました。 次回は、「湯もみ・足ぶみ」と「雪晒し見学」についてのレポートです。どうぞお楽しみに。

 

越後上布の工房 越後上布の工房


重要無形文化財「越後上布・小千谷縮」工房&雪晒し見学

重要無形文化財「越後上布・小千谷縮」工房&雪晒し見学~続編~

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