2013年3月14日 <きもの紀行編> 重要無形文化財「越後上布・小千谷縮」工房&雪晒し見学 続編 「銀座もとじ店主 泉二弘明と行く日本きもの紀行」、第1回目として、国の重要無形文化財、そしてユネスコ無形文化遺産に指定の「越後上布」や「小千谷縮」の工房と雪晒しを見学に、8名のお客様とともに、雪深い新潟県南魚沼市六日町を訪れました。
前回のものづくりでは、新潟県南魚沼市の越後上布の工房見学を通じて、越後上布の「糸づくり」「絣くくり」「地機」について、レポートをお送りいたしました。今回のレポートでは、「湯もみ・足踏み」について、そして「雪晒し」について、レポートしてまいります。 越後上布の伝統的な技法であるこれらの5つの工程を経ることは、越後上布が国の「重要無形文化財」としての指定されるための、「重要無形文化財指定要件」となっており、これらを要件を満たした作品が、重要無形文化財として指定されます。
織り上がった越後上布を整える
越後上布は、その反物を手にしていただくと、反物がふわっと湾曲するようなしなやかさをその手の平に実感されることと思います。 また、お手に取ってその布端に触れていただくと、自然布とは思えないような心地よい柔らかさに驚かれることと思います。 その自然布による反物が極上のしなやかさ、柔らかさを備えている秘訣は、越後上布が「地機(しばた)」という、経糸は腰に巻きつける形で張力を加減しながら、極細の糸を密に織り上げていく、古来からの機織りの技法を用いていること、そして、「足踏み」という工程を経ていることが挙げられます。
越後上布の「重要無形文化財指定要件」 5つの指定要件について
5つの指定要件の四つ目に、「しぼとりをする場合は湯もみ、足ぶみによること」とあります。 これらの5つの重要無形文化財指定要件は、「越後上布」でけでなく、「小千谷縮」についても同様の指定要件が与えられております。「湯もみ」については、小千谷縮の指定要件を表しており、強撚糸を用いて織り上げたあと、湯を入れた舟の中で、手もみをし、糊や汚れを落とすと同時に、「しぼ」を出す工程です。「足踏み」については、越後上布の指定要件を表し、糊や汚れを落としながら、布目を密にし、布を柔らかく仕上げます。
越後の春の風物詩「雪晒し」
今では、古来からの人間の素晴らしい知恵によって生み出された技法である「雪晒し」も、古藤(ことう)さんというお宅一軒のみとなりました。「雪晒し」は、晴天の日の昼間に、反物を長さいっぱいに広げたものを一面に広がる雪の上に並べて、陽の光にかざします。山々の稜線を背景に美しい絵を描く、越後の春の風物詩です。雪深い冬の期間に織り上げたものが春の到来と「雪晒し」を経て、市場へと送り出されます。 雪晒しを見学する際には、体をふわふわと身軽に雪道を歩かなければかなり深くに足が埋もれてしまうくらいの、雪の深さです。
陽を浴びて少しずつ溶ける際に発生する水蒸気が、太陽の強い紫外線によって光化学反応が起こりオゾンが発生し、そのオゾン効果で雪上に並べられた布が白くなると言われています。 雪が溶け始めた午前中から、凍りつかない午後3時頃までの雪晒しを1週間から10日程も繰り返すと、生成りがかっていた地色が、驚くほどに真っ白に、天然の作用によって漂白されます。 これは織り上がりの新しいものだけではなく、着用していて少し汚れてしまったきものでも、雪の中に里帰りして織り上がりの布に混じって雪晒しされると、不思議なことに、またみるみる白さがよみがえるり、新しい命が吹き込まれます。
古藤さんのお宅は、とても味わいのある伝統的な木造家屋で、雪晒しの古き時代の光景を偲ばせてくれるようです。 人間の知恵が生み出した「雪晒し」という伝統技術と文化を、後世に残していけたら、と切に願わずにはいられません。
越後上布の「重要無形文化財指定要件」 5つの指定要件について
5つの指定要件の五つ目に、「さらしは雪ざらしによること」とあります。 雪深い冬の間に織り上げられた越後上布が、仕上げの後、さらに白くする作品は、天気の良い日に、雪上に反物長さいっぱいに広げて、晒します。古来からの人間の知恵による、天然の漂白作用を用いた「雪晒し」は、2月下旬から3月下旬頃まで行われ、魚沼地方の春の風物詩となっています。
日本の夏の逸品、さらりとした極上の肌触りと涼やかさ、洗練された手業により生まれる希少性の高い「越後上布」という歴史と伝統のある織物を身に纏える幸せをぜひ味わっていただけたらと思います。 江戸時代の最盛期には、年間20万反という生産反数を誇った魚沼地方の一大産業も、現在では、年間生産反数は、たった<20~30反程と言われる、幻の麻織物となっています。この貴重な文化遺産を後世に守り伝えていけるよう、私ども銀座もとじも精一杯力を尽くして参りたいと思っております。