2010年10月14日(木)〜17日(日)まで、銀座もとじにて開催した『織楽浅野 新作展 A mon seul desir ―我が唯一の望みに―』。
10月16日(土)には 浅野裕尚さんを迎え、「我が唯一の望みに」にこめた想いを伺う 「ぎゃらりートーク」をしていただきました。
今回のテーマは「A mon seul desir ―我が唯一の望みに―」。 企画展のDMには浅野裕尚さんからのメッセージとしてこう綴られました。
『A mon seul desir ―我が唯一の望みに―』
パリのクリュニー中世美術館には15世紀末に織られた 貴婦人と一角獣をモチーフとしたタピスリーの連作があります。 それぞれのタピスリーには「味覚」「聴覚」「視覚」「嗅覚」「触覚」の 五感が表され、6枚目が「我が唯一の望みに」 と名付けられており、様々な解釈が存在します。
わずかな光に浮かび上がる6枚のタピスリーに囲まれて過ごす時間は 止まったように感じ、謎めいた深く静かな刺激を私に与えてくれました。 五感を研ぎ澄ましイマジネーションを解き放ち、作品を作り上げる。 それが私にとっての「我が唯一の望みに」。
織楽浅野 浅野裕尚
ぎゃらりートークの会場には、大きなタピスリーを飾らせていただきました。 これは浅野さんの所蔵品で、15世紀に作られたフランス製ゴブラン織の貴重なタピスリー。さらに浅野さんはスクリーンに貴婦人と一角獣をモチーフとした連作を映し出し、 6枚それぞれの意味について語ってくださいました。
「この6枚のタピスリーは円形のホールの1室にまとめられています。出会いは10年以上前ですが、 また昨年訪れた際、今までにない強い何かを感じたんです。時が止まったんです。 特にこの6枚目にあたる『我が唯一の望みに』のタピスリーを目にした時、「あなたの唯一の望みは何?」 と問いかけられた気がしました。
五感の次に来るものが『我が唯一の望み』なら、自分の作るものが 「五感を超えて感動していただけるものでありたい」と考えました。
それで今回、 とても強い想いを込めてこれをテーマに掲げ、とても力を入れて自分の『我が唯一の望み』を形にしました。」 五感を研ぎ澄まし、イマジネーションを解き放ち、作品を作り上げる。 織楽浅野は銀座もとじと同じく、今年30周年を迎えます。 いつも以上に真剣な眼差しで創作してくださった作品がこの度集ったのです。
この貴婦人と一角獣のタピスリー連作の“意匠”をモチーフとして創作されたのは、すべての意匠の足元にほどこされた 花草があふれる「千花模様」、そして「聴覚」のタピスリーの絨毯のデザインである「タルキッシュ」。 また、浅野さん自身の『我が唯一の望み』を形にした作品として最も納得できたと仰るのが「アールデコ七宝」です。
「「アールデコ七宝」は“奥行き”を絶妙に表現できた作品です。この“奥行き”というのが自分にとって大事な 部分なんです。私のものづくりの根底にあるものは谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』です。 表面にとらわれるのではなく、デザインだけはなく、奇抜な色のコントラストでもない。 私は色ではなく、光沢の変化によって織物を表現したいと考えています。
そして帯と着物とが互いに生み出す「あや」に美しさを見出したい。 それが織楽浅野のものづくりであり、目指す世界、『我が唯一の望み』なんです。 「アールデコ七宝」では七宝の中に細かな光沢を放つ織模様を綾なすことで、 これまでにないほどの美しい“奥行き”を表現できたと思っています。
会場のお客様には三つの和紙が配られました。楮、三椏、雁皮。 それぞれの質感を指で触れ、目で楽しむ。
「この和紙は今では“生成り”に感じると思いますが、昔で言えば“白”。 日本の“白”は西洋の“真っ白”ではなく、もっと“奥行き”のある“白”だったんです。 同じ“白”でも素材が変わればこれだけ違う。手触りから感じる色の感触も違う。 そういう部分を私は表現して、みなさんに伝え、「五感を超えて感動していただけるもの」を 作りたいのです。」
織楽浅野の『我が唯一の望み』から生まれた最高に美しい“奥行き”のある織物。 ぜひ細部までじっくりと、その光沢の変化を目にし、指で触れ、『陰翳礼讃』の美学をご堪能ください。