2012年11月8日(木)〜11日(日)まで、銀座もとじにて『織楽浅野展 「印」』を開催させていただきました。
11月10日(土)には、浅野裕尚さんをお迎えして、ぎゃらりートークを行いました。
いつも独特の世界観で私たちを驚かせてくださる織楽浅野の代表 浅野裕尚(ひろたか)さん。
今回テーマされたのは『印 しるす』。
このコンセプトは、昨年11月に銀座もとじ店主 泉二弘明(もとじこうめい)の息子、二代目の泉二啓太ともにインドへ“染織の旅”へ訪れたことが記憶のもととなっているそう。
そこで今回は浅野裕尚さんとともに、啓太もお話に参加させていただきました。
『印』に込められた想いとは?
それは決して「インドの『印』だから」ということではありません。
そこにはインドという地で出会った建築、ファッション、宗教観、色彩、そしてものを作ることへの想い、そのものへの人々の生き方、など様々なことを通し“印すということ”に立ち止まられたそう。
「自分の思いを印す。
印されたものにもその思いを宿す。
もう一度、作る時にどれだけ思いを込めてものづくりをしているのか。
それを見つめ直す旅であり、今回の個展でもあるのです。」
200年前のタペストリーが“ステンドグラス”に
〜織物の可能性を見る〜
まず最初に見せてくださったのが、会場でもひときわ目を引いていた大きなタペストリー。 「これはインド カシミール地方で200年前に作られた、3人で5年がかりで作られたものです。 その細やかな装飾も見事ですが、今回はここでちょっと見てほしいことがあるんです」 そう言って会場の明かりを消され、裏からスポットライトを当てるとあら不思議、 大きな一枚のタペストリーが、大きな一枚のステンドグラスのような表情が現われたのです。
「厚ぼったい織物のイメージのあるタペストリーですが、これはベースの織物を薄く仕上げ、艶やかに織ることで、この効果を最初から狙って作られたものなんです。これは、父が3、40年前にインドへ旅した時、一軒家を訪ねた際、窓に映っていた意匠をステンドグラスだと思って入ったら、タペストリーだったという経験から、その効果を知り、買い求めてきたものです。光が透過するのを意識して織り上げたタペストリー、厚手でありながら織物の可能性を見せてくれます。」
ダーダハリールの地下5階の階段井戸との衝撃の出会い
〜祈りを刻む「印すということ」〜
今回インドを初めて訪れた浅野さんが初めて見た建物は「ダーダーハリールの階段井戸」。1499年、イスラム教の王妃ダーダーハリールが造った地下井戸です。地下5階、深さ20メートル。
想像を超えるほど大きなスケールの 地下井戸は、人が階段を降りていき、水をくみ上げてまた階段を上っていくもの。
各フロアには憩いの場があるほどの大きさ。その全面に非常に精緻な文様が刻み込まれています。「その文様は安直に“デザイン”として見るのではなく、すごくそこに“祈り”が刻まれていることを感じました。宗教の強い祈りを持って造り、建築に残していく。強いエネルギーの刻み。それを今も500年たっても伝えてくれる、そのパワーに圧倒されました。」
そこで浅野裕尚さんが自身に対して投げかけた問い。
『自分の織物はどうなのか?
溢れでる思い、強い願いを印しているのか』
「“デザイン”というだけではなく、今まで以上に“願い”を込めてものづくりをやってみよう、“エネルギー”を込めてやってみよう。 この階段井戸が今回の個展のすべてのはじまりです。創作への計り知れない刺激を受けたのです。」
「おしゃれは常に時代の先端であり、また普遍的なもの。自分の創る帯もそうでありたい。」
スライドを使い、インドで撮影したさまざまな写真を見せてくれた浅野裕尚さん。 実際にそのモチーフから出来上がった作品も合わせてご紹介くださり、会場からは驚きの声が上がりました。
インドならではのカラフルな衣裳、ポップな色彩感覚、絞り技術の高さ、建築装飾の細やかさ、そしてそのすべてに“祈り”が込められている。
この度発表された作品は、これまでの織楽浅野のテイストとは全く違う“新しい織物へのチャレンジ”が随所に見られました。
インドで出会った“印すという強さ” “ポップなカラフルさ”。
「これは織楽浅野で新しく生まれでた命です」
強い想いが宿る帯、それは手にするたび心に強く残る圧倒的な生命力。
織楽浅野の世界はいつまでも私たちを驚きの中へ導いてくれることでしょう。浅野裕尚さんが次は何に出会われ、どんな新しい命が生まれ出るのか、本当に楽しみです。
(文:伊崎智子)