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「大人の夏季講習 〜日本の自然布を学ぶ」を開催しました

2015年6月20日(土)〜26日(金)、銀座もとじにて『北から南 ― 日本の自然布展』を開催。6月21日(日)から最終日26日(金)にかけては、連日「大人の夏季講習」と題して日本の自然布を学ぶ勉強会が行われました。

「苧麻の話」 池村初美さん

1978年に国の重要無形文化財の認定を受けた「宮古上布」。トンボの羽のように軽く通気性に富んだ最高の夏衣は、完全分業制のもと緻密な作業のリレーでつくられています。
池村初美さんは「経糸」を作る専門職人で、会場では原料の苧麻から布ができるまでの手順を説明いただいたほか、実際に繊維をつないで糸をつくる「ブー績み」を実演してくださいました。 この「ブー績み」は2003年に国選定保存技術に指定され、以来、若手育成事業を通じて延べ1500人が研修を受けたものの、現在も糸績みの仕事を続けている方は0人。後継者不足に頭を悩ませているとのことです。
「大人の夏季講習 〜日本の自然布を学ぶ」を開催しました

「棉から布になるまで」 大熊眞智子さん 小峰和子さん 永井泉さん

「十絲の会」として今回の展覧会に参加されている手紡ぎ木綿作家のみなさん。大熊眞智子さんは茨城県、小峰和子さんは埼玉県、永井泉さんは長野県のそれぞれの地で、和綿を育て、糸を紡ぎ、織るまでを個人で行っています。 綿は環境への順応力が高く、その土地の気候・土壌に合わせて、たとえば水の少ない地であれば根を深く長く張るなど、たくましく生育する植物だといいます。
そのため、環境の異なる地で、三人三様の手紡ぎ木綿を織り続けてこられたのだそう。 和綿は、輸入のアメリカ綿などに比べ繊維が短く太いため、糸にするのが難しいとのこと。その代わり、一本の繊維の中の空洞が多くの空気を含み、織り上げた布は吸湿性・放湿性に優れているのだそうです。 講演タイトルの「棉(わた)」は、繊維になる前の綿の実の状態のこと。会場には、茶綿など珍しい和綿の「棉」が展示され、お集まりの方々は手で触れて柔らかな風合いを確認されていました。
棉(わた)

「宮中での葛布」 村井龍彦さん

葛布は「アジア最古の布」と呼ばれ、今から6000〜7000年前の「布」が発掘されているといいます。日本では、古墳時代の地層から出土し、奈良時代には大仏制作にも使用されていたとのこと。平安時代には貴族の、江戸時代には武士の衣料として用いられ、やがて明治を過ぎる頃には壁装材として普及。 戦後は輸出壁紙として全盛を誇ったということです。 葛布の特筆すべき点は、その生命力。荒地でもよく育ち、CO2が増えるほど成長率が高まるという特徴があり、一年で2000m、一日で40cmほども伸びたという記録が残っているとのこと。
葛は、根は食用としてくず餅や葛根湯の材料になり、葉は家畜の餌に。蔓は繊維をとって衣料となることから、「葛こそが温暖化の救世主」とうたう人もいるのだとか。 葛布の身上は、繊維の艶やかさ。清流でよく洗うことで透明感のある糸となり、糸質が強いため撚らずに織り込むことが可能で、繊維の光沢感がそのまま布に表現されるのだといいます。
「宮中での葛布」 村井龍彦さん

「日本古来の麻」 高安淳一さん

麻の一種である「大麻」は、日本最古の地層から発見され、縄文時代の繊維が今も残されているといいます。第二次世界大戦後に生産が制限される以前は、日本人の衣食住を支える基本素材として、民具、漁具、能装束、裃、茅葺屋根などに幅広く利用されてきました。
「日本古来の麻」 高安淳一さん
大麻がなければ生活が成り立たないほどに人々の暮らしに根ざし、崇拝されてきた証として、日本各地には大麻にまつわる伝説が多数残されているとのこと。 白川郷には「赤ん坊は手の中に大麻の種を3粒持って生まれてくる」という言い伝えがあるそうです。また、伊勢神宮の「神宮大麻」で知られるように、大麻は神社への正式な奉納物であり、大麻繊維の艶やかな光の中に清めの力があると信じられてきたといいます。 「大麻布」としては生活から遠い存在になってしまいましたが、日本古来の神道と密接な関わりがある大麻繊維。各地の神社を訪れた際には、見たり触れたりする機会があるかもしれません。

「アットゥシ織の今、昔」 藤谷るみ子さん

アットゥシ織の原料は、オヒョウの木。樹齢30〜50年の木の内皮を剥いで裂き、糸をつくります。 アットゥシ織の資料があまり残されていないのには二つ理由があり、ひとつは口承伝統であるということ、もう一つは、アイヌでは使わなくなったものはすべて外の祭壇の脇に供え、自然に還す文化があるためだといいます。
「アットゥシ織の今、昔」 藤谷るみ子さん
今現存する古いアットゥシ織の布は、海外に持ち帰られた方の寄贈によるものがほとんどだということです。 小さい頃から家計を助けるためにアットゥシ織をしていたという藤谷さん。若い頃は糸を様々な色に染めようとしたといいますが、先生にあたる方に「自然のそのままの色、生成りを大事にしなさい」と言われ、以来その言葉を守っているとのこと。 アイヌの伝統柄は魔よけの意味が込められています。その伝統柄に魅入られた世界中のファンから、最近はアイヌ柄の刺繍をほどこした座布団など、衣装以外の作品の受注が入っているそうです。

「しな織とは」國井千寿子さん 野尻弓子さん

シナの木の樹皮からつくられる「しな織」は、葛布・芭蕉布と並んで、日本三大古代布といわれる歴史ある布繊維です。産地である山熊田地区は、わずか19軒の世帯で構成される小さな集落。「さんぽく生業の里」の國井千寿子さんは、「しな織」という誇るべき伝統技術があるにもかかわらず過疎が進む地域一体の村おこしのために、平成13年に65歳で前職を退職後、講演などを通して精力的に情報発信活動を行っています。
新潟では、5月半ばに田植えをし、草取りを経て盆前に家の大掃除をしながらしなの皮を煮るのが古くからの風習。旦那様が木を伐り、お舅様が樹皮を煮て、集落の仲間がそれぞれに糸績みをする。ほとんどの自然布は、糸績み職人の成り手がいないのが悩みと聞きますが、しな織に限っては織り手の方が不足しているとか。平成17年に「羽越しな布」が伝統工芸品に指定されたものの、後継者不足は解消のめどが立たないとのことです。 会場では、参加された方々にしな織のストラップ作りを体験していただきました。國井さんや野尻さんから直接作り方の手ほどきを受け、わずか十数分で素朴な風合いのストラップが完成。笑顔に包まれる講演会となりました。

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