正倉院から現代まで、時空を超えて新たな「創発」へ。 織楽浅野の秘蔵コレクションとともに製作へのお話をお伺いする、浅野裕尚さんのぎゃらりートークもございます。 新作展をさせていただく度、浅野裕尚さんは私たちスタッフにものづくりへの想いを大切に伝えてくださいます。 今回も9月、織楽浅野の工房へお伺いさせていただきました。
織楽浅野 工房
『創発』にかける想い
日々、創造的でありたいと願う私の今回のタイトルは「創発」。 経糸を上下させ、選んだ素材を緯糸として織りこむ構造的な紋織物の中に、 計り知ることのできない美しさを創り出す。それはまさしく「創発」の言葉に重なります。 そしてモチーフは正倉院から現代まで、 仏・英・伊・韓の美術館で撮影した資料など…様々な思いを形に。 ― 浅野裕尚『創発』とはあまり聞きなれない言葉ですが、辞書で調べるとこのようになるのだそう。
創発【そうはつ】・・・生物学的には細部の性質の単純な合計にとどまらない性質が全体として表れ予測できないようなものが発現されること。 浅野さんらしい独特の世界観。「科学的だけど文化的」と仰るその言葉は、ちょっと難しく感じられるかもしれませんが、 浅野さんの美意識は、工房を巡らせていただく中で、体感として心を刺激し、脳に響き、理解に近づくものでした。 それほどに、浅野さんの工房は独自の完成された世界観に満ちていたのです。
美意識が随所にあふれる工房の「資料室」
織楽浅野 浅野裕尚さん 資料室にて
京都の北、鷹峰にある織楽浅野の工房。庭は作庭家・重森三玲が手掛けた枯山水。 住居と工房を兼ねた大変立派な日本式家屋。室内には、鋭い審美眼で見極められたであろう世界中の美術品がセンス良く飾られ、 しかし決して煌びやかではなく、じっくりと深い奥行きを漂わせていました。 通されたのはいくつもの「資料室」。棚に美しく整頓された膨大な資料たち。
デザインは様々なものから、色は自分の中から
「ある時、発見したんです。デザインは全くのゼロから創りだすものだと思っていました。 でもそれは、知っていることの最大限の組み合わせだと気付いたんです。」 国内外、時代もさまざまのポスター、美術展のチラシ、写真集の切り抜き。。。 まるで図書館の資料室のような、ガラガラと左右に動くロッカーのような棚にびっしりと詰められた“デザインたち”。 国別、物体別など、きっちりと区分され納められた資料たちですが、 浅野さんはその資料を探す時、まっすぐにその目的に辿り着くことを求めていないのだそう。
資料には、美術集や写真集、筆、タイル、紙、ポスターなど、デザインのヒントがたくさん
レオナール・フジタのキャンバスを例に素材へのこだわりを伺いました
随所に漂う真剣な美意識。中でも浅野さんが一番大事にしているのは「奥行きを持つこと」。 「“和紙の微妙な違いを使い分けることができるか”。この“奥行きの表現”が一番のテーマです。 雪が和紙にふっと染み込んでいく向こう側を表現したいんです。」 余分を取り除くと、<素材>が残る。そこから何を創るか。 それを伝えるために、浅野さんはいつも私たちに、楮、三椏、雁皮の3枚の和紙を渡してくれます。 同じ日本の和紙の色、一見同じ、でも触れると、染料を含ませると、雪を染み込ませると、 微妙に違う表情を見せる。
その違い、その素材感を布という、糸と糸の交わりの変化によって表現されるのです。 そのために、浅野さんは本来は一色の白糸で織ればすむところを、白糸2種で織りこんでみたり、 同じ白糸でも織りの変化によって生地に凹凸を与えて陰影を表現するなど、 独特の表現方法を創り上げています。 「デザインよりも、ベースの違いを表現仕分ける。ベースが変化できると幅が広くなる。 レオナール・フジタのキャンパスはつるつるだった。これがあったからあの絵が生まれた。 僕も“この生地があるから、この帯ができる”そういうものを作りたい。」 織楽浅野の独特の世界観。たくさんの資料を手に触れ、体感すると理解ができる。 今回は正倉院から現代まで、また仏・英・伊・韓の美術館からインスピレーションを受けた作品が発表されます。 ぜひ美意識の詰まった独自の世界観へ浸りにいらしてください。
織楽浅野の工房の様子
他にも、こちらでは紹介しきれないほど本当にたくさんの“デザインのヒント”を見せてくださいました。 多様な鳥の羽根で作られた筆や、多様な木の素材で作られた箸など、大変貴重なものばかりです。そしてそこから 生み出された織楽浅野の帯やきものたち。そのひとつひとつに、浅野裕尚さんの想いがこめられています。