ものがたりのはじまり
銀座の柳の新芽が爽やかな初夏の風に揺れる頃
毎年恒例の泰明小学校5年生の「銀座の柳染」課外授業がはじまります。
「銀座の柳染め」は、代表の泉二が銀座ならではの、地域に密着した何かが出来ないかと考え、23年程前に当時構えていた店の前にあった柳通りで、毎年初夏に剪定されていく柳の若葉を活かす草木染を試みたのが始まりです。
泰明小学校とのつながりは、二代目・啓太がこの小学校に通っていた頃に遡ります。
「着物って何からできているの? 」
息子や友達が知らなかったことに驚くとともに、
「息子と同じように蚕が吐いた糸から絹ができているということを知らない人が世の中にたくさんいるはずだ。」
そう考えた泉二は店を2週間休み、 店内に蚕棚を作り、蚕を育て、絹が出来るまでを訪れた人が誰でも自由に見れるように半月間開放しました。泰明小学校の生徒たちも見学に訪れ、そのご縁が通じ、を使った『柳染めの体験学習』を行うこととなりました。
そうして1998年にはじまった柳染めの授業はお蔭様で今年20回目を迎えることとなりました。
「柳の剪定授業」
― 命をいただいて“ものづくり”をすること ―
空が抜けるような青さに澄み切った5月23日、
太陽に照らされた柳はキラキラと輝き、きっと20回の節目に神様が贈りものをくださったのでしょう。今日は剪定の授業です。
泰明小学校にある柳は由緒正しい銀座生まれの柳です。
正門脇の柳は明治時代に銀座に植えられた初代の柳から株分けされたもので「銀座の2世柳」と呼ばれています。そしてもう1本は校庭の職員室脇にあり、これは2世柳から株分けされた「3世柳」です。この柳の枝と葉を剪定して、柳染の染料をつくります。
最初に発起人である店主・泉二が挨拶をし、次にこの授業を引き継いだ二代目・啓太から剪定の流れの説明を行いました。
早く作業に取り掛かりたいとうずうずしている子もいましたが、それでも皆きちんと話に耳を傾けていました。
スタッフが教室の窓や校門の上から長いハサミで枝をざっくり切ると、下で待ち受けていた生徒たちが わーっと一斉に駆け寄ってきて、次々と葉を持っていってくれます。 上から降ってくる柳をつかむのがおもしろくて、大きな枝を手にすると嬉しそうに高く掲げながら校庭を元気に走り回っていました。
校庭の職員室前にある3世柳は小ぶりで、こちらは生徒たちが手が届きやすいので、一列に並んで順番に刈っていきます。スタッフがそっと引っ張り、その先を生徒たちがチョキンと切ります。自分の手で刈れる柳は1本だけなので、みんなで少しずつ分け合います。
切った柳は煮出すために長さ10cm位にカットします。カットした柳はビニール袋の中へ。パンパンになったビニール袋を持ち上げると、ふわっと新鮮な柳の香りが漂います。
太陽の恵みをたっぷり浴びてすくすく育った命をいただいたということを、実感する瞬間です。
自分の手で刈って、集めて、私たちも「命をいただく」という作業を生徒と共に行うことで、改めて自然に感謝しました。生徒たちの本日の授業はここで終了です。 午後はスタッフたちで、柳の煮出し作業です。大きな寸胴鍋を4つ。その中に さきほど刈った柳の葉と水をこぼれんばかりに入れ、煮ること約2時間。 途中何度か蓋をあげておたまでかきまぜると、その度に色が濃くなっていきます。 黄色がかったような透明な茶色。3回目の染の授業はこれを使って行います。