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白泥染め大島紬の誕生・特徴について

大島紬の中でもモダンで明るい表情が人気の「白泥染め大島紬」。銀座もとじが大島紬作家・益田勇吉さんと制作する白泥染めの大島紬はすべて極上の絹糸・プラチナボーイを用いて作られ「白恵泥(はっけいどろ)」というブランド名が冠されています。この白く染められた大島紬がどのような経緯で誕生し、伝統的な泥染め大島紬とどのように異なるのか。特徴や魅力を、開発者として今でも進化を続ける益田勇吉さんの取り組みを通じてご紹介します。

伝統的な大島紬との違い

(左:泥染め、 右:白泥染め) (左:泥染め、 右:白泥染め)
大島紬の染め方には、織る前に天然染料・化学染料を用いて締機により絣糸を染める方法と、織り上がった後で化学染料を摺り込んで染める方法があります。 大島紬といえば、カラスの濡れ羽色のような光沢のある黒色をした泥染めが有名ですが、この独特の色と風合いは植物と大地の泥という自然界の染料がもたらすもの。テーチ木(車輪梅)から採れる赤茶色の染料と泥田の鉄分が化学反応を起こし、何十回も繰り返し染めることによって、この奥深い色合いが生まれます。 昭和中期までは伝統柄をモチーフにした泥染めの大島紬が女性の普段着として流行し、また男性向けのお祝いの贈答品としても人気がありました。多くの日本人に愛されてきた大島紬の歴史に新しい風が吹き込まれたのは1980年頃。泥染め大島紬の風合いを残しつつ、白く明るく染め上げられた大島紬が多くの女性の心をつかんだのです。 黒い泥から白い泥へ。大島紬の歴史を変える偉業を成し遂げたのは「益田勇吉」さん、その人です。島津藩の御用達であった白薩摩焼と同じ白土を原料として開発された染料により白く染められた大島紬。泥田では染めず白土で染める新しい染色方法の発明は、当時業界内外に大きなインパクトをもたらし話題を呼びました。

白泥染めが誕生するまで

(左:白泥で染めている様子  右:染め上がった真っ白な絹糸) (左:白泥で染めている様子  右:染め上がった真っ白な絹糸)
白泥染め大島紬は前述の通り、喜界島に生まれ現在は鹿児島に工房を構える大島紬作家、益田勇吉さんにより開発されました。 益田さんは20歳の頃、恵大島紬織物に就職。師匠から「着物をするなら、日本画と焼き物を学びなさい」と言われ、鹿児島の薩摩焼をされている先生のもと陶芸を学ぶことに。昼は大島紬を作り、夜は日本画と焼き物を勉強する生活が始まりました。 益田さんの白い大島紬への挑戦が始まった25歳の頃、日本は高度経済成長の時代。多くの製品が効率的に大量生産されていました。大島紬もその影響を受けて、化学染料を用いた白大島が既に流通していましたが、その大島紬に益田さんは物足りなさを感じていました。泥染めの大島紬特有のしっとりとした艶めきや柔らかさを引継いだ白く美しい大島紬を作りたいと、益田さんは陶芸の白土に着目し研究を重ねます。しかしシワになりにくく長く愛される品質のよい大島紬にするためには、白土でただ染めるだけでは難しいという結論に至りました。
(人物:益田勇吉さん、 左:図案を描く様子、 右:糊張りの様子) (人物:益田勇吉さん、 左:図案を描く様子、 右:糊張りの様子)
研究の末に辿りついたのが、鹿児島・入来鉱山で産出される白土から採れる「カオリン」という粘土鉱物の微粒子です。カオリンは主に紙の原料になるパルプの白さを際立たせ酸化による変色を防ぐための原料。紙だけでなく、化粧品やベビーパウダーにも使われる肌につけても安全な成分であることから、このカオリンを使って大島紬を染められないかと考えました。 この可能性に賭けて、益田さんは鹿児島のカオリンの研究所に立ち入りをお願いをしに行きますが、全くの部外者であった益田さんは研究所から断られてしまいます。何度も何度もお願いをしに行き、ついに許可を得て大島紬を白く染めるための研究が始まりました。 そして9年近くの歳月の後、研究は実を結び1960年に「白泥」で特許を取得。ここに白泥染め大島紬が誕生しました。 益田さんの勤める恵大島紬織物でも本格的に白泥染め大島紬の生産が始まります。恵大島紬織物では、恵関五郎さんによって1984年に「白恵泥」として白泥染めが商標登録され、白恵泥の大島紬が昭和天皇に献上されるほど、その良さが日本中に広がりました。 2017年、惜しくも恵大島紬織物はその素晴らしい技術と功績に幕を閉じ、「白恵泥」の商標は益田さんのもとに引き継がれました。「うちの白泥は一回ずつ染液を交換して染めている。そうした手間をかけるから白くて質の良い白泥染めになる」と益田さんは言います。 「白恵泥」の名を冠した白い大島紬は、その技術の生みの親である益田さんのもとでより美しく、これからも進化を続けていくことでしょう。

白泥染めの特徴

(左上・左下:染色液として液体化したカオリン 右:粉末状のカオリン) (左上・左下:染色液として液体化したカオリン 右:粉末状のカオリン)
白泥染めの特徴として第一に挙げられるのが、そのまろやかな白い色。 この白色はカオリンという長石などが風化してできた天然粘土鉱物の微粒子により染まるので、白泥染めをするにはカオリンを白土から抽出する必要があります。 白土を水の中に溶かして時間を置くと、液が三層になります。この一番下に沈殿する不純物が鉄分。 上にくるのが水。そして、その真ん中の部分がカオリンという粘土質です。分離した層が混ざらないように、丁寧にカオリンのみを取り出し、 それを繰り返すことで混じりけのない白を染めるための染料を作り出すことができます。なんと、その度重なる抽出でようやく染める染液として使えるまでには、2ヶ月かかるとのこと。 染める絹糸はもともと白い色をしているので、白く染めるのは不思議な気もしますが、絹糸はそのままでは性質上、黄変してしまうので、白泥で染めるというのは色合いを保つ上で画期的なことなのです。 白泥染めの工程の中でこのカオリンが登場するのは織る前の最後の仕上げの時。絣括りをした糸を一晩浸けて、 水洗いをせずに絞り、天日乾燥をさせてから蒸す。そしてよく洗って水で溶けてしまう余分なものをすべて取り除きます。 その他にも白泥染めの特徴には、独自の心地良い生地感があります。 カオリンは粒子が非常に細かく布の糸目の奥まで入り込むため、 一本一本の糸がわずかに膨張し、肌触りはしっとりとしなやかになり、 さらには糸自体が空気を含むためふっくらとした仕上がりになります。 カオリンは化粧品や医療品、パルプ業界にも使われている変色を防ぐ、いわゆる“美白”のための天然成分です。化粧品毒性判定事典でも毒性なしと評価される成分であるため、安心して肌に纏うことのできます。

プラチナボーイの絹糸でつくる「白恵泥」の大島紬

(大島紬の色見本) (大島紬の色見本)
「白恵泥」という歴史あるブランド名称は、このたび開発者である益田勇吉さんに引き継がれることになりました。益田さんの作る大島紬はすべて「プラチナボーイ」の絹糸を贅沢に使って作り上げた極上の大島紬です。 プラチナボーイはオスだけの繭から紡がれる生糸で、2007年春に誕生した銀座もとじが繭からプロデュースしている世界初の新蚕品種。卵を産まないオスの蚕はメスよりも20%ほどの多くの絹を生産し、身体にあるたんぱく質をすべて糸に吐き出すことができるため、 メスの蚕が作り出す糸に比べて、艶も丈夫さも糸の長さもそして細さも特別です。 また、益田さんはデザイン、特に色の再現性に対して大きなこだわりを持っていらっしゃいます。「 “着る”ということを考えて作ると“色”のわずかな違いが重要になってくる。 勘も大切だけれど、自分が想う微妙な色加減を表現するには“正確なさじ加減”が必要になってくる。 わずかな色の違いが顔映りを悪くさせることもあります」と言います。 陶芸も染色も化学反応を利用して色を出す点では同じ。「自然は科学」という考えのもと染色と向き合う益田さん。成分の量、温度、時間といった緻密な計算を繰り返し、長年かけて作り上げてきた膨大な色データは、益田さんの作る大島紬のデザインの繊細さや完成度の高さを裏付けるものです。 常に着る人を考え、確かな技術と知識で作り上げる益田さん。「白恵泥」の称号のついた美しい大島紬には、心から着る人を思う益田さんの熱い想いが込められています。

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