「花を染め、そして命を染める」
岩井先生の作品に描かれる草花には凛とした強さがある。
秋に描かれるコスモス、春のタンポポ……
どれを取ってみてもその一枝、一枝に「そこに存在している強さ」を感じ取ることが出来る。
凛とした強さ、気高さ。
花々が持つ生命力と先生が作品に注ぎ込む情熱と命が共鳴し合いより大きな『生命力』となってその作品の中に存在する。
帯にしても着物にしても先生の作品を身につけると私達一人一人が「元気付け」られ背筋がシャンと伸びて 活き活きと輝くような気さえする。
今、和織に来て下さる女性の方々に“より素敵に活き活きと輝いて欲しい”と言う願いを込めて、『岩井香楠子先生の型絵染めの作品』を取り上げてみました。
私達と一緒に岩井先生の作品に込められた『生命力の源』を探ってみませんか?
岩井香楠子先生を探る…岩井先生の工房は何処??
東急東横線横浜駅西口を出て車で10分余り。
大通りを1本わき道に入った高台に岩井先生の工房はあります。
ちょっと山小屋風の屋根の高い2階建ての家、その周りには草花が一面に咲き乱れる、そこが先生の工房です。
女性のお弟子さん数人を抱え、静かに時が流れているような空間でお仕事をされていました。
1年中、太陽の光の加減が変わらない北側の部屋を図案、下絵描きの部屋とし、天井にガラスをはめ込んで自然の柔らかい光線の中で下絵を描きます。
静かな静かなその工房では、虫の声やそよそよと吹く風の音が聞こえてきて、一瞬、山中湖や軽井沢にでも居るような錯覚に陥ってしまいます。
そこでお弟子さんとまるで姉妹のようにまた親子のように仲睦まじく作品づくりに取り組んでいらっしゃいました。
私達に色々と説明してくださる先生のお顔は、まるでお母さんのように優しく暖かく… これが先生の作品に出ている『優しさ』の源なのだろうと思いました。
次に「型絵染めの説明と実演」
この段階になると先生の目が一際鋭くなり、一人の作家の目に変わりました。
さすがプロ!! その一瞬を垣間見た私達は改めて感嘆の声を上げてしまいました。
丁度お邪魔した日は沖縄で玉那覇有公氏に就いて両面紅型の講習会を1週間受けて帰ってきたばかりとか。
先生の目には更に新たなやる気と創作への意欲でキラキラと光って見えました。
岩井先生がこの世界に入ったきっかけは
岩井先生は子供の頃から絵に親しむ機会が多く、それが高じてお父上の交友関係から小倉遊亀女史について 日本画をずっと学んでいました。
そして大学は東京芸術大学美術学部日本画専攻に進み卒業。
その後ご結婚され旦那様のお仕事の関係で米国で暮らします。
そこで改めて着物の持つ素晴らしさに気づき自ら「纏う」事になります。
ある冊子に先生がこのように書かれていました。
「身にまとう一枚の衣が、その女の人の全人格をあらわしてしまう」と気づいたのは 30歳の頃アメリカで過ごした経験からでした。
それまで殆ど着物を着たことがなかった私も、着物を纏うことで世界各国の人々の集う中に居ても 臆することなく立ち居振舞える不思議さ、日本女性を一番美しく見せる着物、その素晴らしさを再認識いたしました。
帰国後、着物コーディネーターの修業をするうちに「自分で染めること」に魅せられて、絵筆を染めハケに持ち替えて新たな出発をしました。
人間国宝 鎌倉芳太郎先生をはじめ多くの良き師に恵まれてここまで歩んできました。
この道30年……
自らが着物を着る方だからこそ、どの位置にどのような柄が欲しいか、どのような着物が着たいか、帯はどの辺りに柄が入れば締め易いか……などなど
着る人の気持ちになって作ることが出来る。
それが着る人をより引き立て、着やすい着物づくりに繋がる。
先生の描き出す作品の魅力の一つが、ここにあるのではないでしょうか。
もうひとつの道……作品の生命力はここにある
1965年に芸大卒業、そして結婚。
1968年にご主人に従って米国ミシガン州デトロイトへ。
一男に恵まれ幸せに過ごしていたのも束の間。渡米三年目に突如、不慮の事故でご主人を亡くします。
幼い息子を抱えて傷心で帰国。
そんな時、自分を奮い立たせる先生の心の支えとなったのが、アメリカで心打たれた「日本女性の着物姿の素晴らしさ」とそのとき感じた「ただの衣を纏って帯を締めただけで、どんな豪華な宝石や装身具に飾られた外国女性の前に出ても決して見劣りしない着物の素晴らしさ」でした。
『これを広めたい!! これこそ日本女性の命だもの!! 』
自分に残された道はこれしかないと言う一念で1972年に東京クラフトデザイン研究所に入所して染織を学びました。
生来の絵心と芸大で学んだ下地があったものの、ひたむきな努力と研鑚で7年が過ぎ、1979年には人間国宝の鎌倉芳太郎氏について型絵染めを学び、数々の展覧会で入賞を果して 作家としての基礎を築いて行きました。
しかしこのような輝かしい功績の中でも、奢ることなく自らの原点である「着たい着物」「着せたい着物」を染めるという初心を曲げず、型絵染めの特性を生かして色々な工夫が施され今に至っています。
そして……
作品にはその人の人柄が出ると言います。
ご自身が30代でご主人を亡くされると言う人生での大きな痛みを体験し、それに負けることなく顔をしっかり上げて、生きてきた『その本当の強さ』が、先生の作品の持つ限りない「大きな優しさ」「人を包み込む暖かさ」そして絵の持つ「芯の強さ」に繋がっているのではないでしょうか。
岩井先生が精魂込めて総ての作品を和織用に作ってくださいました。
どれも、この秋冬の新作です。
先生の持つ「優しさ」「慈愛」「母性愛」が息づいている作品の数々
是非手にとってご覧下さい。