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染織家・吉岡政江さんの工房見学レポート

いよいよ今週末(5月19日(金)~21日(日))に迫る初個展を前に、吉岡政江さんの工房を見学させていただきました。

吉岡政江さんに伺いたいことが
たくさん!初の工房見学

銀座もとじでは、スタッフ一人一人が「伝える職人」でありたいと願い、産地や作り手の工房へ度々勉強に伺い、作品ができるまでの物語をまっすぐにお客様へお届けできるよう努めています。

吉岡政江さんの工房はスタッフ皆が初の訪問。
染織を志してからわずか20年で数々の受賞を果たした秘訣は?都心でこれだけの大作をどのような環境で作られているの?「和織物語」に書かれていた「豆下図」って?どういう制作工程なの?・・・たくさんの質問を抱え、参加希望者が多いためなんと2班に分かれて工房にお伺いしました。(吉岡政江先生、お忙しい中本当にありがとうございました!)

日々の喜びと彩りを作品に込める
染織のあるライフスタイル

都内の閑静な住宅街にあるマンションを工房兼住居とされ、迎え入れていただいた一室はモデルルームのような広々としたお洒落な空間。海外の赴任先でご主人と選んだ雑貨やさりげないインテリアの一つ一つにも吉岡さんの美意識を感じます。
彩りのある暮らしが、心豊かなものづくりに繋がっている・・・日々の小さな喜びが着物に織り込まれているからこそ、吉岡さんの作品には優しさと幸福感が満ちているのだと思いました。

生絹絵羽紬「Soirée」
Bill Evansの曲、Soiréeからのインスピレーション。「夜の公演、ソワレにまとっていただけたなら」と吉岡さんのコメントが添えられている。

「数年前にリフォームしたんです。リフォーム屋さんが色々考えてくださって、とても作業がしやすくなりました」

梁(はり)下のちょっとしたフックや壁のポールなど、生活空間を邪魔せず作業を可能にする工夫が部屋の随所に施されています。

部屋の両端にあるポールを使い、15メートルの経糸を張り渡すことができる。

染織家の方が制作される際に、どの工程までを工房内で作られるかは人それぞれですが、吉岡政江さんはデザインと織りだけでなく、糸染めもご自身で手がけられています。大きな寸胴鍋に草木を煮出して染料を作る作業は一苦労。絣糸、着物や帯の繊細なグラデーションの一色一色を、濃淡を考えて繊細に染め分けていらっしゃいます。

吉岡さんが染めた生絹(すずし)の糸。一巻きずつ微妙に色が違う。

草木染は染色家の山崎和樹さんに学ばれ、藍建て(藍染の染料作り)もご自身で行うそう。

「色糸はストックせず、イメージする色を求めて作品ごとに必要な量だけ染めています。一つの作品の中で同じ絣や色糸は少しずつしか使わないので、自宅でも染められる量なんです」

リフォームを機に設えた染色の作業スペース。

「前はキッチンのコンロしかなくて大変だったけれど、今は低めの専用台を作っていただいたのでとても楽になりました」

さらにこの日は、スタッフのために制作工程がわかる資料を用意してくださっていました。

「拙いんですけれど・・見せるのが初めてで・・・」と仰いながら開いてくださった厚手のファイルには、ひらめきの断片のメモや参考資料、糸1本単位での緻密な設計図等が几帳面にまとめられています。

アイデアスケッチが描かれた何冊ものノート、A4の豆下図、着物のミニチュアサイズの小下図、原寸大の下図まで、デザイン構想の過程が様々な形でアウトプットされています。

和織物語」で外舘和子先生が「その膨大な量は、殆どブレインストーミングの如くである」と書かれていた通り、最終イメージが脳内で鮮明になるまで、下図は幾度となく繰り返されます。

「白雨」のデザインの過程で描かれた様々な下図。

平と畝の市松織 絵羽紬 草木染「白雨」
「夏。夕方。突然の雨は大地の恵み。都会の豊かな自然はこんなにも身近にあります。」

「格子や縞が平坦になってはいけない」
精巧に設計されたドラマティックな縞・格子

織り機は2台所有され、経糸の上げ下げを制御する綜絖(そうこう)を10枚まで増やせる仕様です。最もシンプルな平織は2枚綜絖、つまり上下に分けた経糸の間に緯糸を通すことで布になっていきますが、綜絖が多いほど組織は複雑となり、織りの難易度が上がります。

「私は日常的に8枚の綜絖を使うことが多いですが、この機は使いやすくて本当に万能なんです」

格子の中にそっと煌く浮織や、市松状の組織織で織り出される縞模様といった吉岡さんならではの表現は、この特別な織り機から生まれています。

「綜絖」を10枚まで制御できる織り機。複雑な組織織を可能にする。

吉岡さんの作品は、甘さを抑えた都会的な縞や格子を基調とされながら、繊細な色彩と織りが奏でる多層的な美しさに惹きこまれます。拝見した企業秘密ファイルのとあるページには「格子や縞が平坦になってはいけない」というメモがありました。

吉岡さんが織り出す格子や縞は、そこに空間や光が存在するような、音楽が響いているような、あるいは縞と縞がささやき合っているような・・・かたちなきものが格子や縞という形を成して留まっているような豊かさを感じます。

組織織とかすり織りで表現された表情豊かな縞模様。
「月夜野に」

今回の初個展は、吉岡政江さんの20年を振り返る集大成ともいえる展示会となり、工芸展で入選、受賞された作品を多数ご覧いただけます。

オンラインショップでは、ぜひ作品画像を拡大して、繊細な織り表情をご覧ください。そして、機会があればぜひ実物をお手に取ってご覧ください。一枚の布を通して吉岡政江さんの心細やかな優しいメッセージが伝わってくるはずです。


吉岡政江 初個展「織の可能性を求めて」

名もなき風、花、月の光に心を澄まし、かたちなき願いを繊細な織りに表した、渾身の作品群。
染織家・吉岡政江さんの20年の歩みを一堂に会する記念すべき初個展を開催します。
40歳で染織に魅せられ、息つく間もなく駆け上がった染織の道。生絹(すずし)の薄衣、多様な組織織、絣織を得意とし、50歳で東日本伝統工芸展初入選。以降次々と入選を重ね、2020年東日本伝統工芸展記念賞、2021年日本伝統工芸染織展奨励賞・京都新聞賞受賞。
入選作のほとんどをご覧いただけるのも「初個展」だからこそ。
ぜひこの機会に、吉岡政江さんの世界をお楽しみください。

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作品一覧を見る

ぎゃらりートーク

吉岡政江氏と多摩美術大学教授・外舘和子先生をお迎えし、
作品やものづくりについてお話を伺います。
日 時:5月20日(土)10~11時
場 所:銀座もとじ 和織
定 員: 40名様(無料・要予約)

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作品解説

日 時:5月21日(日)14時~※30分程度
場 所:銀座もとじ 和織

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吉岡政江―織の可能性を求めて|和織物語

 

今回の銀座もとじでの初の個展に際し、多摩美術大学教授・外舘和子先生に取材執筆していただいた冊子「和織物語」を公開しています。

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