良い着物とは、伝統に裏づけられた新しい時代センスにあると考えます。
売り手が技術を理解し、買い手の求めを予測して着物を作り上げてゆく、職人や作家をバックボーンにして、売り手と買い手がせめぎ合い、新しい時代センスを作り上げてゆくのが理想です。
私が美大生の頃、京都の着物業界で、染めのアルバイトをしている学生がけっこういて、染めれば売れるといった時代で大変潤っていました。私も勧められて、アートワークと並行して着物も染めるように40年余り、問屋の注文に追われるように着物制作に身をすり減らすような日々もあり、京都の着物業界の変貌ぶりを見つめてきました。
そんな頃に着物業界の在り方に疑問を感じることもありました。安易に売れるがゆえに儲け主義が横行する。たとえば生産価格を抑えるために韓国や中国に発注するようになり、京都の職人が仕事を奪われ、後継者も育たなくなりました。バブル崩壊によって多量の在庫を抱えていた問屋があえなく倒産し、千年の都に培われた高度な伝統技術がこの数十年で次々と絶えてしまいました。
このような困難な着物の時代にもかかわらず「銀座もとじ」が業績を伸ばして40周年を迎えられたのは、着物の作家や職人の仕事を大切に、それを買い手に誠意をもって伝え、買い手のニーズに応えた新しい着物を作り上げてきたからだと思います。
新しい時代センスを生みながら成長してきた着物は、今やファッション界において単なる民族衣装ではなくなってきています。
「銀座もとじ」が今後も次の時代を見据えて発展してゆくことを期待しています。
令和2年4月17日
福本潮子
福本潮子さんのご紹介
大阪市生まれ。
京都市立美術大学の西洋画科を卒業後、龍村美術織物でデザインに従事、その後直ぐに折りたたみ縫い絞り等の染めで独自の立体的な染を表現、公募展で立て続けに大賞を受賞します。藍以外にも茜などの植物染料で染め上げた絹の着物も手掛けており、着物ならではの最たる風情と細やかな手仕事からは現代作家としての極みを感じます。
壁掛け、幔幕、屏風等、着物や帯以外の作品は国内外の美術館に所蔵されています。
一枚の布から思いを引き継ぐ、布の中からみえてくるもの。
その根源的な力強さを自身の眼と手と藍により自らの作品へと練り上げていく、そこには常に布と藍の狭間で伝統と自分の立つ位置を計り直し、今と向き合いものづくりをしている姿があります。
銀座もとじ和染 2006年初個展、2008年、2011年、2013年、2016年 開催
作品所蔵
国立国際美術館(大阪)
東京国立近代美術館(東京)
京都国立近代美術館(京都)
金沢21世紀美術館(金沢)
Museum of Fine Arts, Boston
Victoria and Albert Museum, London
Los Angeles County Museum of Art
Cleveland Museum of Art
Museum of Arts and Design, New York
Röhsska museum, Göteborg
Portland Art Museum
Wereldmuseum Rotterdam
Whitworth Art Gallery, Manchester