刺繍の造形は色彩、形象につづいて素材の組合せによるテクスチュアーの表現が重要な要素です。染や織に比べて技術的な制限が少なく手加減で自由に表現でき、また抑制することも考えながら表現できるところが特徴であり魅力であります。
小生は祇園祭の胴掛など懸装品の調査、復元等の仕事にも関わって参りました。何度も見ています懸装品ですが、毎年のお祭りに各山鉾を見て回りますと、やはり記憶にある以上の感動を受けます。
大きなエネルギーを受けるというのが実感です。
実物に触れることの大切さを知ります。
五感に触れることが魅力です。
私共の刺繍工芸をみましても、様々な素材の成り立つ過程に、様々な下加工に、伝承されてきた技術に 多くの人々の知恵や手技があって作品は完成いたします。そして作品の在り方、使われ方もまた多くの人々のお力を得て作品はその機能意義を完結することができます。お客様が装われることで新たに人々との繋がりが深まり開かれることと存じます。
今日のウイルス感染症禍の状況にあっても変わらない人間の営みと思います。
水や空気、火、自然と繋がって生きている私達、ひとつひとつを大切に歩んでまいりたく願っています。
またお目にかかりたく存じます。
令和2年5月19日
樹田紅陽
樹田紅陽さんの紹介
1948年京都市生まれ。
京繍の初世・紅陽(樹田国太郎氏)の孫として生まれ、京都市立芸術大学西洋画科在学中に父である二世・紅陽が病に倒れた後、刺繍家の美村元一氏、さらに間所素基氏への師事を経て、39歳の時に三世・樹田紅陽を襲名。
1990年より祇園会保昌山の胴掛類の刺繍の復元を手がけ、以降現在まで保昌山胴掛や船鉾の水引の復元・修理、函谷鉾天井幕の新調に携わられています。
250年の時を遡り素材・意匠・技法の伝統を忠実に再現しながらも、完成した刺繍に漂う今様の美と躍動感は見る者を圧倒させます。
連綿と続く繍の深々とした伝統の真を見つめ、着物や帯には現実と未来を見据え革新の心で挑み和様美を追い求めます。
その深く熱い心魂が唯一無二の作品性を生み出します。
銀座もとじ 和織和染にて 2018年11月 初個展開催
1980年 東大寺昭和大納経櫃覆刺繍制作
1990年 祇園祭保昌山胴掛類復原刺繍制作
以降現在まで保昌山胴掛や船鉾の水引の復元・修理、函谷鉾天井幕の新調に携わる。
2001年 伝統文化賞(財団法人 民族衣装文化普及協会)
2005年 国立京都迎賓館 大晩餐室几帳野筋刺繍制作
2018年 奈良国立博物館「糸のみほとけ展」に技法解説資料展示等に協力京都府匠会会員/京都祇園祭山鉾連合会・調査員/(社)文化財保存修復学会会員
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