一枚の布ができるまでには、繭を育てることから始まり、たくさんの方々のたくさんの工程があります。またその布が着物や帯として仕立て上がり、装いの日までも長い道のりです。もとじ社長様がいつも仰っている、一本の糸から着る人へ。たくさんの方々のバトンリレーにより初めて身に纏うことができるのだと、改めて感じています。
私の仕事はその内の生糸から。糸を染め、布を織るところを担っており、一番着る人に近いバトンを託されています。しかし、普段は私の手元からから旅立っていった布がどのように、どんな方が纏ってくださっているのか知らずにいます。想像する他ありません。
2017年、2回目の個展の際、何人かのお客様が素敵な着こなしで帯を締めて来てくださいました。私の染め織ったあの布はこのようになるのかと。作り手にとって、布の晴れ姿を見るようで、何とも嬉しく、その後のものづくりの原動力となりました。
自分のために、誰かのために、着こなしを愉しむ文化は心に活力を与えてくれます。一日でも早くそのような生活に戻れるよう、今は祈るばかりです。
今できることを大切に。
久保原由佳理
久保原由佳理さんのご紹介
長野県松本市生まれ。現在は安曇野に自宅兼工房を構えています。
幼少の頃から実家に隣接する染織作家・本郷孝文氏の工房で染織に触れ、何時の日か私も「ものを創り出す人になりたい」と、心に思う。
東京の大学では人文学部を専攻、卒業後、東京の染織作家・柳悦博氏、崇氏、親子の下で3年師事、その後、松本に戻り本郷氏の下で6年師事、30歳の時に独立をします。
師から受け継いだ理念のもと、糸選び、精練、糸染め、織り、全てを自ら手掛けられます。ご主人の大月俊幸さんは国画会で活躍されている染織作家であり、二人の子供を育てながら意欲的に制作活動をされています。
確かな技と染め織りに向き合う真摯な姿に代表の泉二は貴重な天蚕の生糸を託し最後の工程である織りを依頼、2反織り上げていただきました。
奥深いうつくしさを解き放つ着物や帯、自然界の尊さに心を寄せる久保原さんの眼差しです。
銀座もとじ和織 2013年初個展、2017年開催(全作品プラチナボーイ)
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