こちらは雑誌「美しいキモノ 2023年春号」143ページに掲載されました。
誌面では静物撮影にて、代表的な袴地とその特徴について「銀座もとじ 男のきもの」店長の佐々木伸悟がご紹介しています。
《143ページ誌面より》
小倉縞
「北九州市の備前小倉に工房を構える、染織家の築城則子さんが制作した袴地「碧樹」。黒、白、青、黄色などの縞が都会的な印象。上質な木綿を使って織られ、しっかりとした打ち込み、しなやかな手触りと光沢。」
北九州市の豊前小倉に工房を構えられている、日本工芸会正会員でもある染織家 築城則子(ついきのりこ)さんの小倉織の袴地のご紹介です。
築城則子さんは、1984年(昭和59年)に小倉織を復元された作家です。
小倉織とは、江戸時代の豊前小倉藩(現在の福岡県北九州市)に人気を博した縦縞の柄が特徴の、良質な生綿の糸を撚り合わせて織られた大変丈夫で上質な木綿の織物です。
江戸時代に盛んに織られ、武士の袴や帯として人気を博していた小倉織は、幕末の戦乱の中で生産者たちが離散し、衰微していきました。明治26年頃になると、再び小倉織の人気が高まりはじめ、その丈夫さを活かして、学生服の布地として、再び大変な人気を得るようになりました。しかし、手間とコストのかかる手工業である小倉織は、1901年(明治34年)に起こった金融恐慌の余波などにより大正期に入ってから再び衰微し、その後、昭和初期には小倉織は途絶えてしまったのです。
染織の勉強のためにあちこちの骨董屋さんに通っていた、築城則子さん。北九州市内の骨董店で見たこともない古い小さな布に出会いました。その布は、しっとりとした手触りをしており、縞模様で、木綿の生地でありながら絹のようにも思える光沢を放っていました。その布が“小倉織”。経糸に色の濃淡でくっきりとした縞模様が浮かび上がる小倉織のなめし革のような質感、光沢感、丈夫さ。この織をぜひ復元させたいと思い、研究を重ね、1984年(昭和59年)、その復元を果たします。2007年(平成19年)、小倉織を販売する「遊生染織工房」を開設してからは、2007福岡産業デザイン賞の大賞など、数々の受賞を重ねられています。
作品名:『碧樹』
こちらは、黒、白、青、黄緑等を用いて織り成された縞模様。縞の中の白が効いた、都会的な色使いがおしゃれな袴地です。
すっと落ち着いた絶妙なお色加減。しなやかな手触りの光沢感ある綿の布地にあらわれる縦縞の濃淡は、まるで染めたようにも見え、独特な表情を見せています。
築城則子さんが織り奏でる経縞はまるで「音色」のようです。草木染めの色彩、その澄んだ明度はこだわりの染めによるもの。常に今という時代を意識し、感覚を注ぎ込む、その迷いなき姿が重なる織りの美しさをぜひこの機会にご堪能ください。