2010年3月25日(木)〜28日(日)まで、銀座もとじにて開催いたしました『藤山千春展 〜織の力・吉野間道に魅せられて〜』。 3月27日(土)には藤山千春さんに、織りへの想いや都会での草木染め、プラチナボーイ糸での制作についてお話いただく<ぎゃらりートーク>を開催いたしました。
※「吉野間道」・・・寛永の三大名妓吉野太夫に京の豪商が贈ったと言われる、 名物裂の一種です。柳悦孝氏(柳宗悦氏の甥)らが復元し、 藤山千春さんは悦孝氏の一番弟子として師事し、完成度の高い作品を作り続けています。
藤山千春さんの作品はすべて草木染めのもの。 その材料は工房の庭先にもあります。 「工房の入り口にある臭木(クサギ)の苗木は八丈島から頂いたもの。8月にいいにおいのする花が咲くんですよ。 12月頃になると紺色の実がなって、そうしたらガクから実だけを採って生のまま草木染めをします。 」
藤山千春さんが使っている草木染め材料たち
臭木
胡桃
石榴
矢車附子
五倍子
楊梅
紫根
橡
茜
栗
檳榔子
蘇芳
藍甕もあります
藤山さんの工房には、なんと藍甕もあるんです。 工房を構えた当時、藍の産地・徳島から藍甕を取り寄せるだけで十数万かかる時代。 お金がなかった藤山さんは、それでも自分で藍を建てたくて、柳悦孝先生へ相談したところ 「それじゃあドカンを買ったらいい。」と言われたそう。 そこで藤山さんは地面を掘り始めることに。「近所の小学生が一人手伝ってくれましてね。 二人で無心に掘りましたよ。中に自分が入り、土をバケツで上げる作業の繰り返し。 ドカン1つは直径40cm、深さ1m。これを2つ分。掘れた後は 土の穴に砂利を敷き詰めて、コンクリートを入れてドカンを土の中に埋めてね。出来上がった時は本当に嬉しかった。その後、水瓶もどこからか頂いて、今は3つ、ドカンと水瓶の2種類の藍甕を 使っています。撹拌する時、ドカンは丈夫だからグルグル回すけれど、水瓶は割れちゃうかなと思って 気を使って回しています。」
初挑戦! 〜プラチナボーイ/銀座の柳染め/角帯〜
今回、藤山さんには初めて【プラチナボーイ】の絹糸の【銀座の柳染め】に挑戦していただきました。 「いつになくとっても緊張しました。他の糸なら失敗しても買ってくればいいのですが、プラチナボーイの糸は 数が少ないのでそういうわけにはいかないですからね。初めての糸で具合がわからなかったので、 撚糸屋さんもまずは他の糸でお願いしてみて撚りムラがないかを確認したり。確実に信頼できるところを探したんです。
大事な手紙
最後に藤山さんは「ちょっと聞いてほしいものがあるんです」と仰ってある手紙を取り出しました。 美術大学の卒業の際、先生であった柳悦孝さんから贈られた手紙です。 「頂いた時はチンプンカンプンでよくわからなかったのですが、最近やっと理解できるようになったんです。」 そう言って読んでくださった手紙。藤山さんが心に留めた文章の部分。 『ある時は己を堅く持ち、またある時は己を振り捨てて自由になれ。仕事においてはものにとらわれぬことが大事です。』 藤山さんはその部分を何度も繰り返し読んでくださいました。「ものごとにとらわれず、目の前の大きな状況を見て仕事をする。 はじめからあまり自分の考えを持たない。本当に美しいものが出来るのは、自分の経験や技術だけではなく、 偶然との出会いによって生まれるもの。私の仕事の中でも、自分で思ってもみなかったことに出会うことで生まれた美しいものや発見が たくさんありました。特に草木染めは思い通りにならないからそういうことに気付かされる。染織をやっていて本当によかったと思います。」
番外編 〜臭木染め体験〜
トーク終了後、今回は藤山千春さんが良く使用する草木染料『臭木(クサギ)』染め をお客様に体験していただきました。何度も染め重ねていると吸い込まれそうなほどきれいなブルーに。 銀座の店舗の前は人でいっぱいになりました。