今回、銀座もとじ創業40周年を記念し、グラフィック・アーティストのカンタ・デロシュさんとのダブルネームによるオリジナル風呂敷「繋がり」を制作いたしました。
フランス人のお父様、日本人のお母様を持ち、フランス・パリ生まれのカンタ・デロシュさん。現在は、パリと日本を拠点に、ポンピドゥーセンター・メッスのビジュアルや、2018年には三越伊勢丹の年間広告など、グラフィックだけでなく、ブランドディレクションなど幅広くご活躍されています。
最近では、FIGARO本誌、ELLE本誌などの誌面のデザインにも携わり、私たちの身近なところにもその作品が展開されています。そんなカンタ・デロシュさんのパーソナルな魅力と今回の風呂敷に込めた想いを伺いました。
森口邦彦先生との意外なご縁
啓太(以下、啓):こんにちは。
KANTA(以下、K):こんにちは。
啓)今回銀座もとじ40周年の記念に特別な風呂敷を制作いただきありがとうございます。カンタさんとは、数年前に共通の友人を介して初めてお会いしましたよね。
K)そうですね。思えば今のこのご縁はそこからはじまっていましたね。それから少し間が空きましたが、日本の伝統技術やものづくりにとても関心があったので、この分野で精力的に新しい取り組みにチャレンジされている啓太さんにもう一度お会いして、色々とお話を伺いたいという思いがありました。
K)三越伊勢丹の企画で、銀座三越の事務所へ伺った際、ちょうど「銀座もとじ」のお店が目に入り、これはご縁だと感じてすぐに連絡を入れさせていただきました。そして、また偶然にも、同じような時期に、啓太さんから人間国宝である森口邦彦先生が銀座もとじでの初個展を開くというタイミングも伺い、もともと森口先生とはフランスで家族ぐるみでお付き合いさせていただいていたこともあって、繋がりとは幾重にも広がるものだと感じました。
森口先生がかつてパリに留学中にアールデコラティフ(※1)で学ばれていた時代のご友人が、僕の父の友人であったことや、僕の母がタペストリー作家を志し、パリへ渡って父に出逢うきっかけとなった展覧会に作品を出品されていたことなどもあり、森口先生は僕にとって、なくてはならない大切な存在です。
※1 パリにある国立高等装飾美術学校。1920年代のアール・デコ運動において中心的な役割を果たした。
そして、森口先生も40周年の記念企画で、「繋がり」というテーマのもと、着物をつくられていると伺い、そこから今回の銀座もとじ40周年の風呂敷を制作するというお話に発展しました。
今回の風呂敷は森口先生にも監修していただくことになって、僕にとっても、この企画はとりわけ特別なものになりました。
啓)嬉しいですね。お会いした当初は見えていなかった繋がりを、カンタさんと話せば話すほど感じて、お互いビックリしましたね(笑)。この40周年記念企画のテーマはまさに、「繋がり」。
40周年記念展で感じた「繋がり」
僕たちが、各産地、作家さんに依頼し、「繋がり」をテーマに160点ほどの作品を制作し、2月に発表会を行いました。その際にカンタさんとの風呂敷も初お披露目させていただきました。その時お母様とご家族でご来店くださいましたね。そこで、何を感じられましたか。
K)日本各地のすばらしい伝統文化を要にして繋がるさまざまな出会いを拝見しました。全ての人がゆるやかに繋がっていて、僕もその繋がりの一部なのだなと実感しました。さまざまな職人の手の感触や素材を通して表現される豊かな自然、それぞれの作品に費やされる膨大な時間と精神を感じて、日本の手仕事の細やかさと豊かさに改めて感心しました。
また、銀座もとじの皆さまや、ご来店された方々の、凛とした姿勢に宿る温もりを同時に感じました。「銀座もとじ」という場所は、皆が同じ方向を向いていて、共に何かを発見し、学びながら豊かになっていくような、そんな場だと思いました。
啓)作品の裏側には様々な作り手の思いがあります。いつも展覧会では作り手の方達にもいらしていただくので、お客様との交流が生まれています。作り手と着る側の架け橋になれることは本当に嬉しい事です。今回の2月の展覧会ではいつも以上に「繋がり」を感じて、僕たち自身がそれをより実感しました。
僕は、いつもその作り手から話をお聞きする場合、その人となり、まずはどの様な人生を歩み、「今」に繋がるのかを聞いて理解しようと思っています。
幼少期の環境とグラフィックを志すまで
啓)ここからは、もう少しカンタさんのパーソナルな部分や興味のあることを伺っても良いでしょうか。ご出身はパリですよね。どんな幼少期を過ごされたのですか?
K)父がパリのギメ美術館のキューレターだったこともあり、子供のころは美術館へ行くことが多く、自然と美術全般に関心を持つようになりました。また母が中世タペストリー技術の先生で、自宅では織り機や様々な素材に触れる機会があったので、デザインやものづくりにも興味を持つようになりました。
K)小さいころからノートを持ち歩き、思いついたパターンや抽象的な絵などを描いていましたね。学生の頃、僕の周辺ではグラフィックを仕事にするということがそれほどメジャーではなかったので、あえてグラフィックで自分の世界を表現しようと考えて、今に至ります。
啓)周りの方々がやらないことに、あえて挑戦するという発想は面白いですね!今ではグラフィックデザイナーは若い世代から憧れられる職種の一つかと思います。僕も、着物に関わる仕事を子供たちや若い世代が憧れる職業の一つにしていきたいという夢があるのですが、そのためにも着物の魅力をより新鮮な形で伝えていかなければ、と思っています。
インスピレーションの源
啓)カンタさんが、日々の創作活動において大切にしていることは何ですか?またデザインを考える上でのインスピレーションの源は何でしょうか?
K)詩的な見方で世界を理解しようとする姿勢です。インスピレーションの源については特にルールはないのですが、様々な美術や訪れた世界各地の都市の日常の風景、自然などがインスピレーションになっていると思います。
啓)カンタさんのグラフィック作品を目にすると、様々なジャンルのデザイン、アートの要素をエッセンスとして感じられるように思うのですが、日本の文化で興味のあるものはありますか。
K)子供の頃は琳派の世界に魅了されました。フランス、ヨーロッパの美術やデザイン、食にいたるまで、様々な分野で取り入れられてきたジャポニズムにもずっと関心がありました。また寺社仏閣で感じる、ゆっくりとした時間の流れにも魅かれます。
※2 洗礼名の名付け親の男性。
ゴッドファーザーから学んだアートの世界
啓)影響を受けた人物、刺激を受けたものはありますか?
K)僕のゴッドファーザーがルーブル美術学校のディレクターだったので、ルーブルに良く連れて行ってくれて、彼にアートや音楽を教わりました。美術館で目にする紀元前の作品から、モダン、コンテンポラリーな作品など様々な創作に触れることで、それらから多大な影響を受けました。また、ゴッドマザーの家の壁にかかっていた、ジョルジュ・ブラックの黒い鳥の画や、父にもらったピカソのアンティークの食器などの生活のなかの日常の風景は今でも強い印象として残っています。
啓)ゴッドファーザーがルーブル美術学校のディレクターってすごいですね!生まれてから日常的に様々な芸術作品に触れる生活は、ご家族からの多大な影響があるのですね。今読んでいる本などあれば教えてください。
好きな本や音楽、オフの日の過ごし方
K)ギヨーム・アポリネールの『アルコール』という詩集を読み返しています。詩と画を組み合わせた作品を、現在フランスの詩人と共同で制作しているので、アポリネールのコトバとイメージが重なり合う世界観はとても参考になります。
啓)詩と画ですか。それはとても興味深いです。僕たちも何かを伝える際に、言葉とイメージをとても大事にしています。お気に入りの音楽などはありますか?
K)クラシックだと、エリック・サティやラヴェルが好きです。その他は例えばバンジャマン・ビオレの、そうですね、「ル・シエル・ヴォラン」という曲が特に好きです。
啓)オフの日は何をしていますか?
K)オン・オフの切り替えは特にありません。それはつまり、常にオンなのか、常にオフなのか・・・どちらかなのでしょうね(笑)。空いた少しの時間の楽しみは、時間や社会をテーマにした作品を作ってインスタグラムにアップすることです。
啓)カンタさんのインスタグラムは面白いですね!一つ一つの投稿が連なってひとつの絵が成長していくかのようです。今日は気になっていた投稿の意図がわかってスッキリしました(笑)。
カンタ・デロシュさんのインスタグラムより
インスタグラムアカウント
カンタ・デロシュさん @kanta_desroches
泉二啓太 @keitamotoji
銀座もとじ公式 @ginza_motoji
【素 材】 正絹100%(丹後ちりめん/ 鬼シボ )
【価 格】 19,800円(税込)
【色展開】 3色
【サイズ】 80cm×74cm ※桐箱入り