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「民藝とは手仕事のもつエネルギー」 柳晋哉さんの等身大の染織(2021年公開)

※この記事は2021年に公開されたものです。

民藝運動とは柳宗悦氏が日本各地を巡り、職人の手から生み出された日常の生活道具には美術品に負けない美しさがあり、それらには”用の美”が宿っているとして「民藝」と名付け、世界に向けて新しい美の価値観を提示した活動のことです。「民藝運動の父」と呼ばれた柳宗悦氏の系譜を継ぐ染織作家の柳晋哉さんの個展を、11月26日(金)~28日(日)の3日間、銀座もとじにて初開催いたします。

もともとは別の仕事をされていたという晋哉さん。染織の道を志したきっかけ、 これまでの葛藤、現在の仕事など、今回の催事に向けてお話を伺いました。

染織家 柳晋哉展
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昔から自分でものをつくることが好きだった

―染織の世界に入られるまでの経緯を教えてください。

高校卒業後インテリアデザインの専門学校に進学し、卒業後は建築関係の現場監督をしていました。その仕事も楽しかったのですが、自分で物を作ることが好きだったので将来的にはものづくりの道を探していました。父が染織作家、親戚が陶芸作家、知人にはガラス作家がいて、どれもやってみたい仕事だったので、どの道に進もうかと考えていました。でもやはり物心がついた頃から父の姿を傍で見てきたこともあり、自然と染織の道を決めました。

(写真左)祖父・柳悦博さんの住居である母屋は晋哉さんも幼少期まで暮らしていた(写真右)父・崇さんが織ったという刺し子のカーテン
(写真左)祖父・柳悦博さんの住居である母屋は晋哉さんも幼少期まで暮らしていた(写真右)父・崇さんが織ったという刺し子のカーテン

―それはおいくつの頃でしょうか。

23です。父からは「やめた方がいい」と言われましたね。 でも自分で決めたことなので。しかし、やっていくうちに道具が無い、染料がなくなっていくなど、同じ材料・同じ環境で続けていくことが難しい状況を目の当たりにする中で、父が言っていたのはこういうことだったのかなと思うようにはなりました。

―たとえば現在どんな染料や道具がなくなりつつあるのでしょうか?

たとえばログウッドという染料と、ログウッドを煮出して固めて粉末状にしたヘマチンという染料があるのですが、元は同じ原料でも染め上がりの色が少し違います。 ここ数年でヘマチンが手に入らなくなってしまいました。仕方がないのでログウッドで代用していますが、100%ヘマチンの代わりになるわけではありません。”似てる色だけど少し違う”ということが徐々に増えてきているので、手に入らなくなる可能性のある染料は買いだめをするようにしています。

色々と対策が必要ですが、今の染織の仕事が好きですし、自分に合っていると思いますので、染織の道に進んでよかったと思っています。

(写真)糸染めの様子
(写真)糸染めの様子

「民藝の柳家」という葛藤

―母屋は趣のある日本家屋、室内に置かれている家具、飾られている時計や器一つ一つに、私たちはこだわりを感じてしまうのですが、きっと柳家のみなさんにとっては当たり前の風景なのだと思います。晋哉さんの御祖父である柳悦博さんが生活をされていて、晋哉さんも幼少期までここでお育ちになったそうですね。環境が晋哉さんに与えた影響はあると思いますか。

無意識ではありますが、あると思います。以前、もとじさんのお店に伺った時にも少しお話をしましたが、自分にとっての茶色はこれで(器を見せる)とか、色に対する感覚は養われたと思っています。

(写真左)濱田庄司氏から譲り受けたこの器の茶が晋哉さんにとっての「茶色」だという(写真右)母屋の障子
(写真左)濱田庄司氏から譲り受けたこの器の茶が晋哉さんにとっての「茶色」だという(写真右)母屋の障子

―柳宗悦氏の思想や民藝について考えることはありますか。

思想について考えることはないですが、民藝については考えたりします。 もちろん色々な考え方があるのであくまで僕の解釈ですが、現代の民藝は”手仕事のパワーやエネルギー”みたいなものだと思っています。

(写真)柳宗悦氏による書の掛け軸
(写真)柳宗悦氏による書の掛け軸

もともとの民藝はその村や集落で作り、ただ自分たちで使うだけの日用品に対して、「民藝」という肩書きを付けて世界中に広げる地域復興のような役割をもっていたと思います。でももうみんな知っていますよね。「民藝」という言葉があり、どこになにがある、と。だからもう「民藝」がもつ本来の意味や役割はもう果たしているのではないかなと。

ただその中で今も昔も変わらないのは、手仕事のもつエネルギーだと思います。だから今の仕事で制作したものが「民藝」に当てはまるのかどうかと気にすることはないですね。

柳家家系図 柳宗悦、柳悦孝、柳悦博、柳宗、嘉納治五郎、芹沢銈介ほか

―柳家として染織の仕事をする中でプレッシャーを感じることはありますか。

もちろん昔はありましたが、今は全然ないです。2012年に初めて自分で作った作品を日本民藝館展に出しました。そこまではありました。柳家だからこそ入選しなきゃというプレッシャーですかね。

ありがたいことに入選して素直に嬉しかったですし、そこではじめて柳家とかどうでもよいなと気づきました。どう思われているか分からない所に自分でああだこうだと考えていたら、ひたすら体力を消耗するだけですし、面白くもないのでやめました。

(写真左)2012年の日本民芸館展に初出品・初入選した作品の端切れ(写真右)祖父・柳悦博氏が記した織の見本帖
(写真左)2012年の日本民芸館展に初出品・初入選した作品の端切れ(写真右)祖父・柳悦博氏が記した織の見本帖

“憧れ”が作品に昇華される

―これまで様々な色を染められてきたと思いますが、お好きな色はありますか。

水色とか青色が好きですね、空の色だから。ずっと東京に暮らしていて、東京は空が狭いじゃないですか。学生時代の友人が越後湯沢にいて季節ごとに遊びに行くのですが、その度に空の大きさに感動します。

柳晋哉作九寸名古屋帯
柳晋哉作 九寸名古屋帯

―そこからインスピレーションを受けたりするのでしょうか。

多分インスピレーションとは少し違いますね。“感動”とか“憧れ”が近い気がします。田舎の空にものすごく憧れがあるので頭の中にずっと残っていて、それが無意識のうちに作品に表れることはあると思います。

(写真左)工房取材時に機にかかっていた糸も水色だった(写真右)柳晋哉さんがこれまでつくった作品の端切れ
(写真左)工房取材時に機にかかっていた糸も水色だった(写真右)柳晋哉さんがこれまでにつくった作品の端切れ

―お父さんの水色ともまた違いますよね。

そうですね。父はあまりこういう水色をメインに使うことはせず、染め分けの格子のところに使ったり、ワンポイントで入れるようなことが多いですね。

―晋哉さんの作品は淡い水色から濃い藍まで色々幅を広げて藍を染めていく印象です。

そうですね。でも僕がこの仕事を始めた当初と今とでは、使っている化学染料が違うんですよ。

―化学染料もこの十数年でなくなっているものがあるのですか?

ありますね。昔使っていた化学染料は色が良かったのですが、今使っているものだとケミカルな感じの色合いになってしまいます。それで水色に染めてからヤシャブシを掛けたり、渋木をかけたりという風に、化学染料と植物染料をミックスさせるような形でどうにか色を再現するように工夫しています。

「男物」「奄美の泥染めとのコラボ」新たな挑戦

―今回弊社からの依頼ではじめて男物の制作に取り組んでいただきましたが、いかがでしたか?

作業的にはそんなに変わらないです。使う道具や織るときに手を広げる幅が多少変わるので、はじめは耳(反物の端の余白)に手を引っ掛けてよれてしまい何度かやり直しました。3回程やり直してなんとなく感覚が慣れてきて、治りました。

―デザインに関して、女性ものをつくるときに考えることと何か違いはありましたか?

自分が普段濃い色の服を着ることが多く、男物=濃い色に走りがちでしたので、もとじさんからご提案いただいた白地の男物着尺のアイデアはとても新鮮でした。 角帯も女性の帯とはまた少し違いますので、男性のお客様に角帯の締め心地をお聞かせいただき学ばせていただきたいと思っています。

晋哉さんが男物着尺を織る様子
晋哉さんが男物着尺を織る様子

柳晋哉作 角帯
柳晋哉作 角帯

―また、奄美の泥染めとのコラボにも挑戦していただきました。

奄美大島の染色作家・金井志人さんに男物着尺の染めを一反依頼しました。一度琉球藍で染めたものを泥染めで重ね染めしていて、一見マットな黒に見えますが光の加減や角度で奥から青が立ってくる、不思議な作品になりました。

金井さんとは2012年に彼が泥染めのワークショップで東京に来ているときに友人の紹介で知り合い、そこから継続的に交流がありました。今回が初めてのコラボレーションではありますが、これまでの関係がありますので信頼して染めをお願いすることができました。

柳晋哉作着尺
柳晋哉作 琉球藍と奄美の泥を染め重ねた着尺

―私達もお客様にご紹介するのが楽しみです。さいごに、今回の個展への意気込みをお願いします。

現在制作している作品は全てぐんま200という国産絹糸を使用し精練から工房で行っていまして、糸の輝きにはこだわりがあります。色と肌触り、そしてはじめての男物や泥染めとのコラボレーション作品もお楽しみいただけたらと思います。3日間、どうぞよろしくお願いいたします。

写真右が柳晋哉さん 左は銀座もとじ二代目 泉二啓太
写真右が柳晋哉さん 左は銀座もとじ二代目 泉二啓太

 染織家 柳晋哉 個展 ~糸から紡ぐ端正な織物~

民藝運動の父と呼ばれた柳宗悦氏の甥にあたる、柳悦博氏を祖父に、崇氏を父に持つ、晋哉氏。
柳家の染織を礎に自らの感性と存在を世に問い〝柳晋哉の織〟として糸づくりからこだわり、経糸と緯糸の関係性を思慮深く考察したものづくりをされています。
「民藝とは手仕事のもつエネルギー」と語る晋哉氏。
今回、産地との交流を経て生まれた新作の着尺をはじめ、九寸帯、夏帯、広巾着尺や角帯をご覧ください。

会期:2024年4月19日(金) ~21日(日)
場所:銀座もとじ 和織、男のきもの、オンラインショップ
〈お問い合わせ〉
銀座もとじ和織 03-3538-7878
銀座もとじ男のきもの 03-5524-7472
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